「指標発表の何分前にポジションを閉じればいいですか?」って、わりとよく聞かれる質問なんですよね。で、だいたいの答えは「15分前」とか「30分前」みたいな、キリのいい数字で返ってくる。
私もずっとそれでいいと思ってたんですけど、ある日ふと引っかかったんですよ。「その15分、本当に静かなんですか?」って。
というのも、経済指標って1本ずつ律儀に並んで出てくるわけじゃないじゃないですか。同じ時刻にドカッと固まって出てくることのほうが多い。だとすると「本命の指標を15分前に避ける」という発想自体が、そもそも的を外してるかもしれない。
気になったので、経済指標カレンダーを27週分(2026年4月27日〜10月31日、139日分・1,250イベント)まるごと落としてきて、「発表と発表の間隔」を自分で全部数えてみました。結論から言うと、「指標の何分前」で考えている限り、この問題は解けません。考え方を「混んでいる時間帯ごと避ける」に変えると、途端にシンプルになるんですよね。
まず数えた: 重要指標の半分は「ひとりじゃない」
使ったのはみんかぶFXの経済指標カレンダーです。各行に重要度(★の数)と国が属性として埋まっているので、機械的に集計できるんですよ。ここから(日付, 時刻, 国, 指標コード)を1つの「発表イベント」として畳み直して、同じ分に何本乗っているかを数えました。
まず全体。発表時刻は全部で884スロットあって、そのうち240スロット(27.1%)は同じ分に2本以上が乗っていました。
で、ここからが本題なんですけど、★の多い指標に絞るともっと極端になります。「その発表から、いちばん近い別の発表まで何分あるか」を測った結果がこれです。
| 対象 | 件数 | 同じ分に相方がいる | 15分以内に別の発表 | 最寄りまでの中央値 |
|---|---|---|---|---|
| ★3以上 | 734件 | 393件(54%) | 448件(61%) | 0分 |
| ★4以上 | 212件 | 113件(53%) | 136件(64%) | 0分 |
| ★5 | 47件 | 20件(43%) | 33件(70%) | 15分 |
最寄りまでの中央値が0分。これ、けっこう衝撃だったんですよね。★4以上の重要指標の半分以上は、同じ分にもう1本(以上)の発表がぶら下がっているということなので。
つまり「今日は米雇用統計だけ避けよう」と思っていても、実際には雇用統計と一緒に別の数字も出ている。チャートが動いたとき、どっちに反応したのかは後から見ても分からないんですよ。
「1本だけ避ける」は成立しているのか
もう少し踏み込んで、★4以上の発表212件それぞれについて「前後◯分の中に、他の発表が何本入っているか」を数えました。
| 見る範囲 | 他に0本(=単独) | 1本 | 2本 | 3本以上 | 他の発表の平均本数 |
|---|---|---|---|---|---|
| 同じ分だけ | 99件(47%) | 48件(23%) | 35件(17%) | 30件(14%) | 1.10本 |
| 前後15分 | 76件(36%) | 54件(25%) | 39件(18%) | 43件(20%) | 1.44本 |
| 前後30分 | 68件(32%) | 53件(25%) | 40件(19%) | 51件(24%) | 1.61本 |
| 前後60分 | 49件(23%) | 56件(26%) | 34件(16%) | 73件(34%) | 2.01本 |
よく使われる「前後15分」で見ると、単独で発表されている重要指標は36%しかない。残りの64%は、その15分の中に平均1.44本の別の発表が同居してるんですよね。しかも60%は「★3以上の指標」が同居しているので、おまけみたいな小粒な指標ばかりというわけでもないんですよ。
注意
ここで数えているのは「カレンダーに載っている発表の密度」であって、値動きの予測ではありません。混んでいる時間帯が必ず大きく動くわけでも、空いている時間帯が必ず静かなわけでもないです。要人発言や地政学ニュースはカレンダーに載らないまま飛んできます。
じゃあ何分あければいいのか — 発想を「時間帯」に変える
ここまでだと「結局どうしようもないじゃん」って話に見えるんですけど、同じデータを逆から見ると急に希望が出てきます。
「±◯分の発表ゾーン」が、平日の8:00〜24:00(960分)のうち何%を潰しているかを計算してみました。
| 範囲 | 対象 | 1日のうち潰れる割合(平均) | いちばん長い空白時間(中央値) |
|---|---|---|---|
| 前後15分 | 全指標 | 18.4% | 345分 |
| 前後30分 | 全指標 | 33.3% | 330分 |
| 前後15分 | ★3以上 | 11.2% | 540分 |
| 前後15分 | ★4以上 | 4.1% | 795分 |
| 前後30分 | ★4以上 | 7.9% | 780分 |
★4以上を前後30分ずつ避けても、潰れるのは1日のたった7.9%なんですよ。残りの9割以上は「重要発表から30分以上離れた時間」として普通に残ってるんですよ。しかもいちばん長い連続空白は中央値で780分(13時間)ある。
要するに、重要指標は1日のごく狭い場所に固まっているので、点で避けようとせず、その固まりごとブロックで避けるほうがずっと楽なんです。
固まっている場所はどこか
じゃあその「固まり」は具体的にどこなのか。時刻を分単位で数えたら、見事に偏ってました。
| 時台(日本時間) | 発表の総数 | 最も集中する時刻 | 同じ分に複数発表が乗る割合 |
|---|---|---|---|
| 21時台 | 236本 | 21:30に198本 | 50% |
| 22時台 | 55本 | 22:45に30本 | 15% |
| 23時台 | 142本 | 23:00に115本 | 25% |
21:30と23:00の2つだけで、この3時間の発表の大半を占めてるんですよね。21時台にいたってはスロットの半分が「複数同時発表」です。
そして決定的だったのがこれ。21:30に何かしら発表があった平日86日のうち、68日(79%)は同じ晩の22:30〜23:30にも発表がありました。21:30から夜側の最後の発表までの幅は、中央値で90分、最長120分なんですけど、これがなかなか厄介で。
つまり「21:30を避ける」だけでは、8割の確率で1〜2時間後にもう一発待っているということなんですよ。15分前に閉じて、発表を見送って、「よし終わった」と思ってポジションを持ち直した1時間後にもう一度やられる、という流れが構造として組み込まれている。
POINT
★4以上の重要発表212件のうち、144件(68%)が日本時間21:00〜23:30の150分に収まっていました。この150分をひとつのブロックとして扱うだけで、重要発表の約7割を一度に外せる計算になります。「指標ごとに何分前」と数えるより、この時間帯を丸ごと「触らない時間」に指定したほうが、圧倒的に管理が楽なんですよね。
混んでいる時間帯は、実際に動いていたのか
ここも気になったので確かめました。みんかぶFXのカレンダーには「前回ドル円変動幅」という列があって、その指標が前回発表されたときに10分後までドル円が何pips動いたかが載っているんですよ。これを1つ前の発表スロットに付け替えて集計してみたんですよ。
| 同じ分の発表本数 | スロット数 | 変動幅の中央値 | 上位10%の水準 |
|---|---|---|---|
| 1本(単独) | 506 | 2.7 pips | 11.1 pips |
| 2本 | 136 | 3.3 pips | 11.2 pips |
| 3本 | 47 | 2.8 pips | 10.3 pips |
| 4本以上 | 25 | 6.7 pips | 17.3 pips |
単独発表の中央値2.7pipsに対して、4本以上重なったスロットは6.7pips。2.5倍くらい動いています。
ただし正直に書いておくと、これはきれいな右肩上がりになっていません。3本のときは2.8pipsで、単独とほぼ変わらない。しかも4本以上のサンプルは25スロットしかないので、少数のイベントに引っ張られている可能性は十分あります。「重なれば重なるほど比例して荒れる」とまでは、このデータでは言えないです。
言えるのは「極端に混んでいる時間帯は、荒れる側に寄りやすい傾向があるらしい」くらいまで。そこは慎重に見ておいたほうがいいと思うんですよね。
曜日でも全然違う
ついでに曜日別も出してみたんですけど、これがけっこう使えました。「★4以上を含む混雑時間帯」が1日あたり何個あるかです。
| 曜日 | 1日あたりの混雑時間帯 | 混雑ゼロだった日 |
|---|---|---|
| 月曜 | 0.44個 | 25日中15日(60%) |
| 火曜 | 1.67個 | 27日中2日(7%) |
| 水曜 | 1.56個 | 27日中3日(11%) |
| 木曜 | 1.89個 | 27日中5日(19%) |
| 金曜 | 1.07個 | 27日中6日(22%) |
月曜は6割の日が「重要発表の混雑ゼロ」でした。逆に火・水・木はほぼ毎日何かしら混んでるんですよ。月曜って材料が薄くて動かないイメージで敬遠されがちなんですけど、「カレンダー起因の事故が起きにくい日」という意味ではいちばん安全なんですよね。この見方は自分でも意外でした。
注意
この記事の時刻はすべて2026年4〜10月(欧米が夏時間だった期間)の日本時間です。2026年11月1日に米国が冬時間に入ったため、21:30の枠は22:30に、23:00の枠は24:00に1時間後ろへズレます。欧州は10月末に切り替わっており、ズレ方が地域ごとに違う時期もあります。時刻そのものを暗記せず、お使いのカレンダーで毎週確認してください。
私がやってみて、実際に変わったこと
この集計をやってから、自分のルールを書き換えました。前は「重要指標の15分前に手仕舞い」だったんですけど、今は「21:00〜23:30は新規を建てない時間帯」という、時計だけ見れば判断できる形にしています。
で、やってみて思ったのが、判断がめちゃくちゃ楽になったということなんですよ。前は毎回カレンダーを開いて「これは★いくつだっけ」「前後に何かあったっけ」と確認してたんですけど、そこで迷っている時間自体がけっこうなストレスだったんですよね。時間帯で切ると、その迷いが丸ごと消える。
POINT
運用する上での落としどころとして、私は3段階に分けました。
① 21:00〜23:30は新規を建てない(重要発表の68%がここに入る)
② 月曜は少し緩めてよい(6割の日は混雑ゼロ)
③ 火〜木は「混雑ゼロの日」のほうが例外だと思っておく
細かく最適化するより、こうやって粗く切ったほうが結局守れるんですよね。守れないルールは無いのと同じなので。
もうひとつ気づいたのは、「指標を避ける」と「指標で取る」は別の話だったということです。私は前者のつもりでいたのに、実質「本命1本だけ避けて、同居している別の発表は食らう」という中途半端な状態になっていた。ここを自覚できたのが、個人的にはいちばん大きかったと思います。
この考え方に向いている業者の条件
時間帯でまとめて避ける運用にすると、必然的に「混雑ブロックの外で、細かく回数を取る」スタイルに寄っていきます。スキャルピング寄りになるので、業者に求める条件も変わってくるんですよね。ここは意外と見落としがちなところだと思います。
私が見ているのはこのあたりです。
- スキャルピングが規約上きちんと許可されているか。回数が増えるので、ここが曖昧な業者は最初から候補外にしています
- 平常時のスプレッドが安定しているか。混雑時間帯を避ける前提なので、「静かな時間のコスト」が効いてきます
- 指標時に約定がどうなるかの説明が公開されているか。避けきれず持ち越す日は必ずあるので、そのときの挙動が書いてあるかどうかは見ます
この条件だと、スキャルピング層向けに条件を整えているExnessは一度見ておく価値があると思います。口座タイプごとにコスト構造が違うので、自分の回数とロットで実際どうなるかは公式で確認してみてください。
まとめ
27週分のカレンダーを数えて分かったことを、最後に並べておきます。
- ★4以上の重要発表の53%は、同じ分に別の発表が乗っている(最寄りまでの中央値は0分)
- 前後15分で見ると、単独で出ている重要指標は36%だけ。残りは平均1.44本と同居している
- 一方で、★4以上を前後30分避けても潰れるのは1日の7.9%。固まっている場所はごく狭い
- 21:30に198本、23:00に115本が集中。21:30に発表がある日の79%は、同じ晩にもう一発ある
- ★4以上の68%が21:00〜23:30の150分に収まる。ここをブロックで切るのがいちばん効率がいい
- 月曜は6割の日が混雑ゼロ。火〜木はほぼ毎日混んでいる
「何分前に閉じるか」という問いって、答えがあるように見えて実は無いんですよね。隣に何があるか次第で正解が毎回変わるので。だったら最初から「混んでいる時間帯には居ない」という形に変えたほうが、ルールとして機械的に守れるし、結果的に事故も減ると思うんです。
数字は私が自分で集計したものなので、同じやり方で自分のよく触る通貨ペアや時間帯に当てはめてみると、たぶんまた違う景色が見えてきます。ぜひ一度カレンダーを「混み方」の目で眺めてみてください。
