こんにちは、瀬名ハルカです。
前回の記事で「経済指標カレンダーの前回値は36〜37%の確率で後から書き換わっている」という話を書いたんですけど、あれを公開したあとに自分でずっと引っかかってたことがあって。
「で、その書き換えって上下どっちに寄るの?」という話なんですよね。
だって、もし「この指標は毎回上に書き換わる」みたいなクセがあるなら、カレンダーの前回値を見るときにあらかじめ割り引いて読めるじゃないですか。逆に完全にランダムなら、気にするだけ無駄ということになります。どっちなのか知りたくて、今度は改定の「向き」だけを数えてみました。
結論から言うと、全体で見ればほぼ五分五分なのに、指標ごとに見ると驚くほど一方向に偏っているという、ちょっと面白い結果になりました。
数えた範囲と、数え方
使ったのはみんかぶFXの経済指標カレンダー(fx.minkabu.jp/indicators)です。ここの「前回」欄は初回発表値 (改定値)という形式になっていて、カッコが付いている行だけが「前回の発表値が後から書き換えられた」行なんですよ。この読み方自体は前回記事で実データ照合して確認済みなんですよ。
今回も念のため検算しました。たとえば2026年5月8日の米雇用統計(4月分)は結果が11.5万人。その次の回である6月5日の「前回」欄は11.5万人 (17.9万人)。カッコの外が前回の初回発表値、中がその後の改定値で間違いないです。
集計したのは2026年3月16日〜10月5日の30週分、2,332行。うち結果が出ていて前回値も取れたのが2,319件、改定が入っていたのが840件(36.2%)でした。前回の26週版が37.0%だったので、週を4つ足してもほぼ同じ水準でした。ここは安定してるんですよね。
全体では、きれいに五分五分
まず全体の向きから。
| 改定の向き | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 上方改定(前回値が大きく書き換わった) | 442件 | 52.7% |
| 下方改定(前回値が小さく書き換わった) | 397件 | 47.3% |
| 併記されたが同値 | 1件 | ― |
52.7%対47.3%。正直、ここはもうちょっと偏ってるかなと思ってたので拍子抜けしました。「統計は後から上に直される傾向がある」みたいな話をたまに見かけるんですけど、少なくともこの30週・840件を素で数えた限りではそんな傾向は出ていないです。
改定幅も一緒に見ておくと、単位が「%」で揃っている480件の符号付き中央値が+0.10ポイント、絶対値の中央値が0.20ポイント。やっぱり上下どちらにもほぼ同じだけ振れてるんですよね。
ちなみに重要度の★別でも見てみたんですけど、★3が50.6%、★2が52.6%、★1が54.2%と、★の数では説明がつかないんですよね。★5だけ62.5%と上方寄りですが、これは母数が16件しかないので誤差の範囲だと思います。断定できる材料じゃないんですよ。
ところが、指標ごとに見ると極端に偏る
面白いのはここからで、系列(=同じ指標の同じ項目)ごとに分けて数え直すと、景色がまったく変わるんですよ。30週で改定が5回以上入った92系列について、上方と下方のどちらに寄っているかを見たのがこちら。
| 偏り具合 | 系列数 | 割合 |
|---|---|---|
| 片側100%(全部同じ向き) | 8系列 | 8.7% |
| 片側80%以上 | 26系列 | 28.3% |
| 片側60%以下(ほぼ互角) | 39系列 | 42.4% |
偏りの中央値は66.7%なんですけど、要するに4系列に1つ以上は、改定が8割以上同じ向きに入っているということになります。全体で五分五分に見えていたのは、上に寄るクセのある指標と下に寄るクセのある指標が打ち消し合っていただけなんですね。
実際に偏っていた系列を並べるとこんな感じです。
| 指標 | 上方/下方 | 改定幅の中央値 |
|---|---|---|
| 米・S&Pケースシラー住宅価格(前年比) | 7 / 0 | +0.04pt |
| 米・中古住宅販売件数 | 5 / 0 | +3.0万件 |
| 日本・国内企業物価(前年比) | 6 / 0 | +0.30pt |
| 日本・通関ベース貿易収支 | 0 / 7 | -109億円 |
| NZ・貿易収支 | 0 / 7 | -2.23億NZドル |
| 英・雇用統計(失業保険申請件数) | 0 / 6 | -1.56万件 |
| ユーロ・建設業生産高(前月比) | 1 / 6 | -0.20pt |
| 英・公共部門ネット負債 | 1 / 6 | -15億ポンド |
個人的に一番びっくりしたのが米国の新規失業保険申請件数でした。毎週木曜に出るあれです。
- 初回申請件数: 26回の改定のうち23回が上方(88.5%)。中央値は+0.1万件
- 継続受給者数: 30回の改定のうち28回が下方(93.3%)。中央値は-0.7万件
同じ発表の、すぐ隣に並んでいる2つの数字が、正反対の方向にほぼ毎回書き換わっているんですよ。これ、知らないとちょっと気持ち悪いですよね。実際のデータを追ってみると、初回申請は本当に判で押したように+0.1万件ずつ上に動いていて、継続受給者数は-0.3〜-1.3万件くらいの幅で下に動いています。
POINT
改定の向きは「指標全体のクセ」ではなく「その系列のクセ」。だから自分が追っている指標について個別に確認するのが正解で、「経済指標は上に直されがち」みたいな一般論で覚えても役に立たないです。
国別だと米国が56.9%(165/290)と少し上方寄り、英国が42.7%(44/103)と下方寄り。ただこれも、英国は失業保険申請件数と公共部門ネット負債という「ほぼ毎回下方」の系列を2つ抱えている影響が大きいので、国民性みたいな話ではないと思います。
本題: 改定で「前回比」の向きが反転することがある
で、ここが一番実務に効く話なんですけど、改定が入ると、「結果が前回より増えたのか減ったのか」という判定そのものがひっくり返ることがあるんですよ。結果の数字は動かないのに、比較相手である前回値が動くので。
数えてみたら、改定が入った840件のうち34件(4.0%)で向きが反転していました。前回値ありの2,319件に対しては1.5%。率としては小さいんですけど、そのうち20件が★3以上なんですよね。注目度が高い指標ほど改定も丁寧に入るので、むしろ目立つところで起きる。
いちばん分かりやすかったのが2026年6月5日の米雇用統計(★5)です。
注意
非農業部門雇用者数の結果は17.2万人。前回(4月分)の初回発表値は11.5万人だったので、それと比べると+5.7万人の大幅増に見えます。ところが前回値は17.9万人に上方改定されていたので、改定後の数字と比べると-0.7万人の小幅減。どの時点の前回値を見ているかで、結論が増加から減少にひっくり返ります。
他にも、2026年3月19日の英雇用統計は前回値が2.86万件から0.47万件へ、実に2.39万件も下方改定されていました。結果は2.47万件だったので、これも改定前後で向きが逆になっています。
反転が起きたのは延べ28系列。特定の指標だけで起きる現象じゃないんですよね。
これ、どう使えばいいのか
実際に取引に落とすとなると、気をつけるポイントは3つかなと思っています。
1つめ。「前回比」を根拠にするなら、どの時点の前回値かをはっきりさせる。 発表の瞬間にあなたが見ていた前回値と、1ヶ月後にカレンダーを見返したときの前回値は別物である可能性が36%あります。手法の検証をしていて「あのとき良い数字だったはずなのに今見ると違う」となったら、たぶんこれなんですよね。
2つめ。自分がよく触る指標だけでいいので、改定のクセを調べておく。 全部やる必要はないんですけど、よく使うものは押さえておくと楽です。米雇用統計、米CPI、週次の失業保険申請あたりだけでも、過去の「前回(改定)」欄を数回ぶん眺めれば傾向は見えます。みんかぶFXは初回値と改定値を両方併記してくれるので、これは地味にありがたいんですよね。
3つめ、これは取引条件の話なんですけど。 指標発表の前後って、どのみちスプレッドが開いてスリッページも出やすい時間帯じゃないですか。そこで「あれ、前回比プラスだと思ったのに違った」と慌てて入り直すと、判断ミスのコストに取引コストが上乗せされます。短期で指標を触るなら、約定やスプレッドの条件は事前に確認しておきたいところなんですよね。スキャルピング寄りの条件を公開している業者だとExnessあたりが比較候補になりますが、条件は時期やサーバーで変わるので最新は公式サイトで確認してください。
今後の注目ポイント(2026年10月13日〜17日)
せっかくなので、来週この目線で見ると面白い指標を挙げておきます。
- 10月13日(火)23:00 米・中古住宅販売件数(★4) ― 今回の集計で改定が入った5回すべてが上方だった系列です。前回値398万件がそのまま据え置かれるのか、また上に直されるのか、見どころなんですよね
- 10月14日(水)21:30 米・消費者物価指数(★4) ― 前回3.4%に対して市場予想は3.6%。CPIは改定が入りにくい系列ですが、同時に出るコア指数も含めて前回欄にカッコが付くかどうか
- 10月15日(木)21:30 米・小売売上高(★5) ― この原稿を書いている時点ですでに前回欄が「1.2%(1.1%)」と下方改定で表示されています。 予想0.3%と比べるときに、1.2%と1.1%のどちらを基準に置くかで印象が変わるパターンの実例です
- 10月15日(木)21:30 米・新規失業保険申請件数(★3) ― 上で書いた「初回は上、継続は下」のクセがそのまま出るか確認できます
いずれも発表時刻は日本時間で、米国が夏時間のあいだの表示です。相場がどちらに動くかは私には分かりませんし、断定する気もないです。ただ「カレンダーに出ている前回値は確定値ではない」という前提だけ持っておくと、数字の読み違いは確実に減ると思うんですよね。
POINT
今回の数字はみんかぶFXのカレンダー表示を機械的に集計したものです。各国統計局の原系列を直接取ったわけではないので、媒体側の表記方針による差はあり得ます。正確な改定履歴が必要な場合は各統計の公式リリースで確認してください。
FX取引はレバレッジを用いた取引であり、預けた資金(元本)を上回る損失が生じる可能性があります。本記事は情報提供を目的としたものであり、投資を勧誘するものではありません。取引を行う際は自己責任・余裕資金の範囲で行い、各社公式サイトで最新のリスク説明書・規約を必ずご確認ください。
まとめ
- 30週・2,319件のうち840件(36.2%)で前回値に改定が入っていた
- 向きは全体では上方52.7%・下方47.3%とほぼ五分五分。「後から上に直されがち」という傾向は確認できなかった
- ただし系列別に見ると、改定5回以上の92系列のうち26系列(28.3%)が片側80%以上に偏っていた。8系列は全部同じ向き
- 米新規失業保険申請件数は、初回が88.5%上方・継続受給者数が93.3%下方と、同じ発表内で正反対に偏っていた
- 改定によって「結果-前回」の向きが反転したのは840件中34件(4.0%)。うち20件が★3以上
前回の記事が「どれくらいの頻度で書き換わるか」だったのに対して、今回は「どっちに書き換わるか」でした。正直、全体では偏りゼロという地味な答えだったんですけど、系列ごとに割ったら急に表情が出てきたのは数えてみないと分からなかったです。この手の検証、やっぱり自分の手で数えるのが一番早いんですよね。
