今日(2026年10月14日)の21時30分に、米CPI(消費者物価指数)の発表があります。こういう「ドルそのものが動く日」って、持っているポジションが全部いっぺんに同じ方向へ飛ぶんですよね。
で、そのときによく聞くのが「1つのペアに賭けるのは怖いから、2〜3ペアに分散してます」という話。私も昔そう思ってたんですけど、組み合わせによっては、分散どころか同じポジションを2枚持っているのとほぼ同じになります。
これ、感覚で語っても仕方ないので実際に数えてみました。使ったのはFRB(米連邦準備制度理事会)が公表している為替レートの原データで、7通貨ペア・26年分・6,708営業日です。
何を使って、何を計算したのか
データはFRBの「H.10」という公表系列です。ニューヨーク正午時点の為替レートが2000年1月から毎営業日ぶん、誰でもダウンロードできる形で置いてあります。業者のツールじゃなくて中央銀行の一次データなので、誰が見ても同じ数字が出るのが良いところなんですよ。
対象にしたのは、H.10で揃う主要7ペア。USD/JPY・EUR/USD・GBP/USD・AUD/USD・NZD/USD・USD/CHF・USD/CADです。全部が揃っている日だけに絞って6,708日ぶん、1日ごとの変化率を出しました。
まず、そのままの「1日の値動きの大きさ」(変化率の標準偏差)がこちら。
| 通貨ペア | 1日の変動の大きさ |
|---|---|
| NZD/USD | 0.788% |
| AUD/USD | 0.766% |
| USD/CHF | 0.635% |
| USD/JPY | 0.620% |
| GBP/USD | 0.583% |
| EUR/USD | 0.575% |
| USD/CAD | 0.527% |
オセアニア通貨が一番荒くて、加ドルが一番おとなしい。ここまでは、まあ想像どおりなんですよね。問題はここからです。
26年分の相関行列を出してみた
2つのペアがどれくらい一緒に動くかを表す数字が相関係数です。+1に近いほど同じ方向にそっくり動き、0なら無関係、-1に近いほど逆向きに動く、と思ってもらえれば大丈夫です。
6,708日分で計算した結果がこちら(表示はプラットフォームに出てくる建値のまま)。
| USD/JPY | EUR/USD | GBP/USD | AUD/USD | NZD/USD | USD/CHF | USD/CAD | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| USD/JPY | 1.00 | -0.32 | -0.20 | -0.12 | -0.16 | 0.42 | 0.07 |
| EUR/USD | -0.32 | 1.00 | 0.65 | 0.57 | 0.56 | -0.78 | -0.48 |
| GBP/USD | -0.20 | 0.65 | 1.00 | 0.55 | 0.55 | -0.51 | -0.47 |
| AUD/USD | -0.12 | 0.57 | 0.55 | 1.00 | 0.83 | -0.42 | -0.65 |
| NZD/USD | -0.16 | 0.56 | 0.55 | 0.83 | 1.00 | -0.44 | -0.58 |
| USD/CHF | 0.42 | -0.78 | -0.51 | -0.42 | -0.44 | 1.00 | 0.35 |
| USD/CAD | 0.07 | -0.48 | -0.47 | -0.65 | -0.58 | 0.35 | 1.00 |
目を引くのはAUD/USDとNZD/USDの0.83です。ほぼ同じものなんですよね。あとはEUR/USDとUSD/CHFの-0.78。これは逆向きなので、両方「買い」で持つと打ち消し合います。
意外だったのがUSD/JPYで、他のどのペアとも相関が小さいんですよ。一番大きいUSD/CHFとの0.42でも「そこそこ」どまり。ドル円って日本人には一番馴染みがあるペアですけど、ポートフォリオの中では一番ユニークな動きをする一本だった、というのは数えてみて初めて腑に落ちました。
「実効ペア数」で見るとわかりやすい
相関係数のままだとピンとこないので、もう一歩進めます。2つのペアを同じ金額ずつ買ったとき、合計のリスクが実際どれくらいになるかを計算して、それを「実質何銘柄に分散できているか」に直しました。これを実効ペア数と呼ぶことにします。
POINT
実効ペア数1.0=2ペア持っていても実質1銘柄を2枚持っているだけ。2.0=本当に独立した2銘柄に分散できている。2より大きい=打ち消し合っていて、両建てに近い状態。
| 組み合わせ(両方とも買い) | 相関 | 合計リスクは単体の | 実効ペア数 |
|---|---|---|---|
| AUD/USD + NZD/USD | 0.83 | 1.92倍 | 1.09 |
| EUR/USD + GBP/USD | 0.65 | 1.82倍 | 1.21 |
| EUR/USD + AUD/USD | 0.57 | 1.78倍 | 1.27 |
| USD/JPY + USD/CHF | 0.42 | 1.69倍 | 1.40 |
| USD/JPY + USD/CAD | 0.07 | 1.47倍 | 1.86 |
| USD/JPY + AUD/USD | -0.12 | 1.33倍 | 2.25 |
| USD/JPY + EUR/USD | -0.32 | 1.17倍 | 2.94 |
| EUR/USD + USD/CHF | -0.78 | 0.66倍 | 9.06 |
一番上、豪ドルとNZドルを両方買っても、実効ペア数は1.09。分散になっていません。リスクは単体1本の1.92倍、つまりほぼ素直に2倍まで膨らみます。「2ペアに分けたから安心」と思っていたら、ロットを2倍にしたのとほぼ同じだった、ということなんですよね。
ユーロとポンドの組み合わせ(1.21)も似たようなものです。ここは「ユーロとポンドは別の国だから」と思いがちなんですけど、対ドルで買っている以上、結局は同じ『ドル売り』を2回やっているだけなんですよ。
逆に一番下。EUR/USD買い+USD/CHF買いは、合計リスクが単体1本の0.66倍にまで縮みます。リスクが減って良さそうに見えるんですけど、これ実質的に両建てなんですよね。スプレッドを2回払って、ポジションを打ち消しているだけです。意図してやっているなら戦略ですけど、「分散のつもり」でやっているなら一番もったいないパターンだと思います。
3本・4本に増やしても、あまり増えない
じゃあ本数を増やせばいいのか、という話なんですけど、そこも計算してみました。
| 持ち方 | 合計リスク | 実効ペア数 |
|---|---|---|
| EUR/USD・GBP/USD・AUD/USD・NZD/USD を各1枚買い | 単純合計の85% | 1.38 / 4本 |
| USD/JPY・USD/CHF・USD/CAD を各1枚買い | 単純合計の73% | 1.89 / 3本 |
4本に分けても、実効は1.38本ぶんにしかなっていません。これはドルストレートを4本買う=ドル売りを4回やっているので当然なんですけど、画面には4つポジションが並ぶので「分散できている」気分にはなるんですよね。ここのギャップが怖いところだと思っています。
対してドル買い3本のほうは実効1.89。こちらのほうがまだマシなのは、相手の通貨が円・フラン・加ドルでバラけているからです。とはいえ3本で1.89なので、やっぱり本数ほどは分散していません。
そして相関は固定されていない
ここが一番大事かもしれないんですけど、上の数字は26年を平均した値であって、毎年そうなるわけじゃないんですよ。年ごとに計算し直すと、こんなに動きます。
| 組み合わせ | 最小 | 最大 | 中央値 |
|---|---|---|---|
| AUD/USD + NZD/USD | 0.60(2006年) | 0.93(2025年) | 0.84 |
| EUR/USD + GBP/USD | 0.43(2019年) | 0.84(2006年) | 0.66 |
| EUR/USD + USD/CHF | -0.98(2012年) | -0.38(2015年) | -0.86 |
| USD/JPY + EUR/USD | -0.65(2005年) | +0.05(2012年) | -0.44 |
一番下を見てください。USD/JPYとEUR/USDは、年によって符号そのものがひっくり返っています。2005年は-0.65なのに2012年は+0.05。「このペアは逆相関だから安心」みたいな覚え方をしていると、ある年からいきなり前提が崩れるわけです。
しかも直近のほうが相関は強まっています。直近1年(257営業日)で計算し直すと、EUR/USDとGBP/USDは26年平均の0.65に対して0.81、豪ドルとNZドルは0.82。つまり今は、昔より「分散しにくい」相場なんですよね。
注意
この計算に使ったH.10は1日1本(ニューヨーク正午)のレートなので、測れるのは「日をまたいだ値動き」だけです。日中のヒゲやスキャルピング時間軸の連動は、このデータでは測れません。また、過去の相関が今後も続く保証はまったくありません。あくまで「ロットを決めるときの目安」として見てください。
で、どう使うか
私がこの表を作ってから変えたのは、ポジションの数ではなくロットの合計を見るようにしたことです。
具体的には、相関0.8超の組み合わせ(豪ドル+NZドルみたいなやつ)を同時に持つときは、2本合わせて1本分のロットとして扱うようにしました。画面上は2ポジションでも、リスクの大きさは1.9倍なので、それなら最初から1本に集約したほうがスプレッドも1回で済むんですよね。
逆に本当に分けたいなら、USD/JPYを軸に、ドルの反対側が違う通貨になる組み合わせを選ぶのが数字の上では素直です。USD/JPY+USD/CADで実効1.86、USD/JPY+AUD/USDなら2.25まで行きます。ドル円が他と連動しにくいという性質は、日本人トレーダーにとってはけっこう使える武器だと思うんですよ。
あと地味に効くのがコストの話です。実効1.09の組み合わせを2本持つと、リスクは1本ぶんしか増えていないのにスプレッドは2回払うことになります。高レバレッジで回数を打つスタイルほど、この「無駄な2本目」は効いてきます。スプレッドの狭い口座を使っているなら、なおさら本数を絞る意味があるんですよね。
今後の注目ポイント
冒頭に書いたとおり、本日10月14日21時30分(日本時間)に米CPI、翌15日には米小売売上高の発表が控えています。どちらも「ドル全体」が動く材料なので、今日の話がそのまま効いてくる場面なんですよね。
注意
今回のCPIについて、調べた範囲では市場予想の数字が情報源によって割れていました。よく見かける3.6%という数字はクリーブランド連銀のナウキャスト(推計値)が出所で、各社のアンケート集計とは別物です。予想値を使って取引する場合は、自分が見ている数字がどこ由来なのかを必ず確認してください。発表日時も含め、最新情報は各社の公式カレンダーでご確認を。
見るポイントとしては、発表直後にドルストレート(EUR/USD・GBP/USD・AUD/USDあたり)が揃って同じ方向に飛ぶかどうか。揃って飛んだなら、それがまさに今日の記事の「相関」が目に見えた瞬間です。逆にドル円だけ違う動きをすることもあって、そこも含めて自分の目で確認してみると面白いと思います。
FX取引はレバレッジを用いた取引であり、預けた資金(元本)を上回る損失が生じる可能性があります。本記事は情報提供を目的としたものであり、投資を勧誘するものではありません。取引を行う際は自己責任・余裕資金の範囲で行い、各社公式サイトで最新のリスク説明書・規約を必ずご確認ください。
まとめ
FRBの公表データ26年分・6,708営業日を自分で数えてみて、わかったことを並べておきます。
- 豪ドル+NZドルは実効1.09ペア。2本持っても分散になっていない
- ユーロ+ポンドも実効1.21。対ドルで買う限り「ドル売り」の重ね掛けになる
- ドルストレート4本買いでも実効1.38本ぶん。本数は気休めにしかならない
- EUR/USD買い+USD/CHF買いは実質両建て。スプレッドだけ2回払う形になる
- USD/JPYは他と連動しにくい。分散の軸にするなら一番使いやすい
- 相関は年ごとに大きく動く。符号が反転する組み合わせすらある
「分散」という言葉は安心感があるんですけど、ポジションの本数と、実際に背負っているリスクの量は別物なんですよね。本数ではなく合計リスクで管理する、という当たり前の話に落ち着くんですけど、26年分を自分で数えてみると納得感が全然違いました。
使ったデータはFRBが無料で公開しているものなので、気になる方はぜひご自分でも確認してみてください。計算に使ったスクリプトもリポジトリに置いてあります。
