経済指標トレードの説明って、だいたいこう書いてあるんですよね。「結果が市場予想から大きく離れるほど、サプライズになって相場は大きく動く」と。
私もずっとそう思ってました。というか疑ったこともなかったんですよ。予想と結果を見比べて、離れてたら動く。理屈としてはすごく自然じゃないですか。
ただ、これって誰かが数えた話なんでしょうか。今週は10月14日(水)21:30に米CPI、15日(木)21:30に米小売売上高と、身構えるタイプの指標が続きます。せっかくなので、身構える前に「そもそも外れ幅は値動きを説明するのか」を自分で数えてみました。
結論から言うと、外れ幅はほとんど効いていませんでした。むしろ予想どおりに着地した回のほうがよく動いていたくらいなんですよね。順番に説明していきます。
今週のカレンダー:身構えるのはこの2日
まず事実確認から。みんかぶFXの経済指標カレンダーで10月13日(火)〜19日(月)の重要度★4以上を拾うとこうなります(時刻はすべて日本時間)。
| 日時 | 指標 | ★ | 事前予想 |
|---|---|---|---|
| 10/13 23:00 | 米・中古住宅販売件数(9月) | ★4 | 398万件 |
| 10/14 21:30 | 米・CPI(9月・前年比) | ★4 | 3.6% |
| 10/14 21:30 | 米・コアCPI(9月・前年比) | ★4 | 2.5% |
| 10/15 21:30 | 米・小売売上高(9月・前月比) | ★5 | 0.3% |
| 10/15 21:30 | 米・フィラデルフィア連銀景況指数(10月) | ★4 | 26.8 |
| 10/16 22:15 | 米・鉱工業生産指数(9月・前月比) | ★4 | 0.3% |
| 10/19 11:00 | 中国・実質GDP(第3四半期・前年比) | ★4 | — |
今週唯一の★5が15日21:30の米小売売上高なんですけど、ここ、実は単独では出てこないんですよ。同じ21:30に生産者物価指数(PPI)・ニューヨーク連銀製造業景気指数・新規失業保険申請件数・フィラデルフィア連銀景況指数が全部重なります。この点は後でもう一度触れます。
注意
この予想値はみんかぶFXのカレンダーに載っていた数字です。市場予想は情報源によって割れることがあります(米CPIの前年比3.6%は、別の媒体ではクリーブランド連銀の推計モデル由来の数字として紹介されていて、エコノミスト調査の中央値とは出どころが違います)。発表直前にご自身のカレンダーで必ず確認してください。
数え方:カレンダーの「前回変動幅」列を使う
みんかぶFXのカレンダーには、あまり注目されていない列があるんですよ。「前回ドル円変動幅」という列です。ページの注記に定義が書いてあって、前回の発表から10分後にドル円が何pips変動したかという意味なんですね。
つまりこの列、実測値なんです。しかも全指標に機械的に付いている。これを使えば「外れ幅」と「実際に動いた幅」を突き合わせられるわけです。
ただ地味なトラップがあって。この変動幅は「その行の回」ではなく「ひとつ前の回」の値動きを指しています。素直に同じ行の予想と結果を見比べると、まったく別の回の話を比べることになっちゃうんですよ。
そこで、同じ指標の隣り合う2回を鎖のようにつなぎました。k回目の(結果−予想)と、k+1回目の行に載っている変動幅をペアにする、というやり方です。つなぎ方が合っているかは、k+1回目の「前回」欄がk回目の「結果」と一致しているかで検算しています(2,064組中1,748組、84.7%が一致。一致しなかった組は隣接が保証できないので全部捨てました)。
それと単位の問題もあるんですよね。雇用者数は「万人」、CPIは「%」、貿易収支は「億ドル」。外れ幅をそのまま足し合わせても意味がないんですよ。なのでその指標自身が普段どれくらい外すかで割ることにしました。「米CPIがいつも0.1ポイント外す指標なら、0.3ポイント外した回は3倍のサプライズ」という数え方です。こうすると単位が消えて、指標をまたいで足せる数字になります。
POINT
対象は2026年3月16日〜10月8日の32週分。カレンダーの行は2,495行あって、そこから隣接が確認できて予想・結果・変動幅がすべて揃った1,164組・247系列を集計対象にしました。10分後の変動幅は全体で中央値3.4pips、平均6.0pips、上位1割が11.7pips以上、最大は124.8pipsでした。
結果:外れ幅で分けても、動きは増えなかった
で、本題です。「いつもの外れ幅の何倍ブレたか」で5段階に分けて、10分後の変動を並べたのがこちら。
| その回の外れ幅 | 件数 | 変動の中央値 | 10pips以上 |
|---|---|---|---|
| 予想ちょうど(ゼロ) | 130 | 4.4pips | 25.4% |
| いつもの1倍まで | 589 | 3.4pips | 13.6% |
| 1〜2倍 | 275 | 3.2pips | 6.5% |
| 2〜4倍 | 92 | 2.6pips | 12.0% |
| 4倍超 | 25 | 2.2pips | 8.0% |
見てのとおりで、大きく外れた回ほど、むしろ動いていないんですよ。4.4 → 3.4 → 3.2 → 2.6 → 2.2と、きれいに右肩下がりです。正直これは予想してませんでした。
いちばん意外なのが一番上の行なんですけど、予想ぴったりに着地した130回が全バケツの中でいちばん動いているという。10pips以上動いた割合も25.4%で最大なんですよね。「サプライズがゼロだから動かない」ではなかったわけです。
「大きく外れるのは小物指標だけ」なのでは?を潰す
ここで真っ先に疑うべき反論があると思うんですよ。「予想が大きく外れるのって、誰も見てないマイナー指標ばっかりなんじゃないの?」という話です。マイナー指標は予想がいい加減なので外れやすく、しかも動かない。だから見かけ上こうなっているだけ、という説明ですね。
私もそう思ったので確かめました。各バケツの平均★を出すと、上から2.93 / 2.86 / 2.85 / 2.91 / 2.92。見事に横一線なんですよね。「大きく外れたグループだけ格下の指標が集まっていた」という事実はありませんでした。
念のため、1回の発表に複数の系列がぶら下がっているケース(雇用統計の中の雇用者数・失業率・平均時給…みたいなやつ)も潰して、★が最大の1系列だけ残した547イベントでも数え直しました。結果は4.2 → 3.0 → 3.3 → 2.5 → 2.2で、やっぱり増えません。
一方、★のほうは素直に効いていた
面白いのがここからなんですけど、同じデータを★別に並べ替えると、今度はきれいに効くんですよ。
| 重要度 | 件数 | 変動の中央値 | 10pips以上 |
|---|---|---|---|
| ★1 | 34 | 2.5pips | 5.9% |
| ★2 | 307 | 2.9pips | 7.5% |
| ★3 | 600 | 3.5pips | 13.0% |
| ★4 | 169 | 4.0pips | 18.9% |
| ★5 | 54 | 6.6pips | 38.9% |
★1の2.5pipsから★5の6.6pipsまで、一段も崩れずに上がっていきます。★5は20pips以上動いた回が22.2%ありました。平均だと16.0pipsまで跳ね上がるんですけど、これは中央値の6.6pipsと離れすぎていて、要は「たまに来る特大の1回」が平均を引っ張っているということなんですよね。
この対比が今回いちばん腑に落ちたところです。つまり「どの数字が出たか」より「どの指標か」のほうが、値動きをはるかによく説明しているということになります。発表前から分かっている情報だけで、動くかどうかはある程度決まっていた、とも言えるわけです。国別に見ても米国指標の中央値が4.9pipsなのに対し、英国2.2pips・日本2.4pips・ドイツ2.4pips。これも発表前から分かっていることですよね。
じゃあ方向は当たるのか:53.8%でした
幅がダメなら方向はどうなんだ、という話もありますよね。「強い結果が出たらドル買い」というやつです。
これも数えました。米国の指標のうち「数字が大きいほど景気が強い」と素直に言えるもの(小売売上高・ISM・鉱工業生産・GDPなど)と、「大きいほど弱い」もの(失業率・新規失業保険申請件数)だけを選んで、極性を揃えた上で「強い結果 → ドル円上昇」が一致した割合を出しています。CPIみたいに「上振れが利上げ観測を呼ぶのか景気後退を呼ぶのか文脈次第」という指標は極性が決められないので最初から外しました。
結果は130回中53.8%。ほぼコイン投げですね。
さらに引っかかったのが、10pips以上はっきり動いた27回に絞ると一致率が44.4%まで下がったことなんですよ。つまり「大きく動いた回ほど、教科書どおりの方向には行っていない」。27回しかないので強い主張はできないんですけど、少なくとも「大きく動く=教科書どおりに動く」ではないのは確かだと思います。
この数え方の限界も書いておきます
都合のいいところだけ出しても仕方ないので、弱いところも正直に書いておきますね。
まず、測っているのは「10分後の1点」だけです。発表直後に30pips飛んで10分後に戻ってきたら、このデータ上は「ほぼ動かなかった」になります。ヒゲも最大値幅も見えていません。大きく外れた回ほど「飛んで戻る」が起きているなら、今回の結果はそれで説明できてしまうんですよ。そこは否定できません。
次に、同時刻に出た指標を切り分けられません。今回のデータだと1回の発表に2系列以上ぶら下がっているケースが312件ありました。米雇用統計なんかは雇用者数・失業率・平均時給の全部に同じ変動幅が付いています。どの数字が相場を動かしたのかは、この列からは分かりません。今週の15日21:30も同じで、後から「小売が効いた」と言い切るのは無理なんですよね。
あとは、★がみんかぶFX1社のつけた重要度であること、期間が32週しかないこと。媒体や局面が変われば結果も変わる可能性があるので、今回の期間を特別視しないほうがいいと思います。
で、結局どう使うか
私がこの集計から持ち帰ったのは3つです。
ひとつめ、結果の数字を見て入らない。予想との差で「外れたから買い」とやるのは、今回のデータ上は根拠が薄いです。方向も53.8%でしたし。
ふたつめ、代わりに「どの指標か」で身構える。これは発表前から分かるので準備ができるんですよね。今週なら14日21:30と15日21:30です。逆に★2以下の前でポジションを畳む必要はそんなにない、という判断もできます(★2の中央値は2.9pipsでした)。
みっつめ、動く場所ではコストが跳ねる前提で考える。ここが地味に大事だと思っていて。10分後に6.6pips動く環境って、スプレッドも素直に開くんですよ。変動の中央値が3〜4pipsという世界だと、スプレッドが1pips広がるかどうかは誤差じゃなくて勝敗の半分くらいを占める話になってきます。指標発表をまたぐなら、平常時のスプレッドが狭い口座を使っておく意味はかなり大きいと思うんですよね。
POINT
今回の32週で、10分後に10pips以上動いた回は全体の約13%。残りの大半は数pipsの世界です。指標発表そのものより、その数pipsの中でいくら取引コストを払っているかのほうが実は効いてくる、というのが私の実感です。スキャルピング寄りの人ほどここは響くと思います。
今後の注目ポイント
10月14日(水)21:30 米CPI(9月分) ★4。前年比の事前予想は3.6%、コア前年比は2.5%でした。ただ上に書いたとおりCPIは「上振れたらドル高」と単純に言えない指標なので、方向を事前に決め打ちしないほうがいいと思います。
10月15日(木)21:30 米小売売上高(9月分) ★5。今週唯一の★5です。前月比の事前予想は0.3%、自動車を除くコアが0.5%。同時刻にPPI・NY連銀・フィラデルフィア連銀・新規失業保険申請件数が重なるので、動いたとしてもどれが効いたかは後から特定できません。
10月19日(月)11:00 中国・実質GDP(第3四半期) ★4。週明けの東京時間なので、豪ドルなど資源国通貨を持っている人はカレンダーに入れておくといいと思います。
来週以降も同じ手順で数え続けるつもりです。32週だと足りないので、期間を伸ばしたら結果が変わるのかどうかは追いかけたいんですよね。
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まとめ
- 32週・1,164組を数えた限りでは、結果が予想から大きく外れた回ほど10分後の変動はむしろ小さかった(4.4pips → 2.2pips)
- 「大きく外れるのはマイナー指標だけでは?」という交絡は、各バケツの平均★が2.85〜2.93で横並びだったので成立しない
- 一方で★は素直に効いた。★1の2.5pipsから★5の6.6pipsまで一段も崩れず、★5は20pips以上動いた回が22.2%
- 「強い結果 → ドル買い」の方向一致率は53.8%。10pips以上動いた27回に絞ると44.4%まで落ちた
- ただし測っているのは10分後の1点だけで、同時刻の指標も切り分けられない。そこは割り引いて読んでください
「予想との差」は発表されるまで分からないのに、「どの指標か」は前の週から分かるんですよ。だったら前者で判断しようとするより、後者で準備したほうが合理的なんじゃないかな、というのが今回の結論です。
複数の情報源で確認した限りでは今週の予定は上記のとおりですが、発表時刻や予想値は直前に変わることがあります。最新は必ずご自身のカレンダーと各社公式サイトで確認してくださいね。
※データ出典:みんかぶFX 経済指標カレンダー(fx.minkabu.jp/indicators)2026年3月16日〜10月23日の32週分を取得し、うち2026年3月16日〜10月8日の発表回を集計。
