海外FX業者の比較表って、だいたいスプレッドの数字が横並びになってるじゃないですか。「USD/JPY 1.6pips、EUR/USD 1.4pips」みたいに。それ見て「ユーロドルのほうが安いんだな」って思うんですよね。私もずっとそう読んでました。
でもこれ、単位が揃ってないまま数字だけ並べてるんですよ。1pipの価値は通貨ペアごとに違うし、そもそも1日にどれだけ動くかも全然違う。同じ「1.0pips」が、ペアによって全然違う重さになってるはずなんです。
というわけで、FRBが公表している公定レートの7通貨ペア・26年分を落としてきて、全部円に揃えて数えてみました。結論から言うと、冒頭の例は逆で、1.6pipsのUSD/JPYのほうが1.4pipsのEUR/USDより1.67倍軽かったです。
何をどう数えたか
使ったのはFRB(米連邦準備制度理事会)のH.10という統計です。ニューヨーク時間の正午の為替レートを毎営業日1本だけ公表しているやつで、2000年以降の全履歴がHTMLで置いてあります。中央銀行が出してる一次情報なので、どこかのまとめサイトの数字を孫引きするより確実なんですよね。
取ったのは以下の7通貨ペア、2000年1月3日から2026年10月2日までの6,708営業日分です。
- USD/JPY・EUR/USD・GBP/USD・AUD/USD・NZD/USD・USD/CHF・USD/CAD
やった計算は単純で、隣り合う営業日の差の絶対値を取って、それをpipsに直して平均しただけ。そこから先が本題で、そのpipsを「1ロット(10万通貨)あたり何円か」に換算しています。
まず「1pipの価値」が揃っていない
ここが全部の出発点なんですけど、1pipが何円かはペアによって違います。ドル円は1pip=0.01円なので1ロットで1,000円。これは為替レートが動いても変わりません。一方、ユーロドルは1pip=0.0001ドルなので1ロットで10ドル。これを円にするにはその時のドル円レートを噛ませる必要があるんですよ。
USD/CHFやUSD/CADみたいにドルが左側にあるペアはもう一段ややこしくて、決済通貨が外貨なので「外貨→ドル→円」と2回換算します。2026年10月2日時点のレート(ドル円157.81円)で計算するとこうなりました。
| 通貨ペア | 1pipの価値(1ロット) | ドル円を1.00とした比 |
|---|---|---|
| USD/JPY | 1,000円 | 1.00 |
| EUR/USD | 1,578円 | 1.58 |
| GBP/USD | 1,578円 | 1.58 |
| AUD/USD | 1,578円 | 1.58 |
| NZD/USD | 1,578円 | 1.58 |
| USD/CHF | 1,903円 | 1.90 |
| USD/CAD | 1,107円 | 1.11 |
つまり「スプレッド0.3pips」と書いてあっても、ドル円なら300円、ユーロドルなら473円、ドルスイスなら571円。同じ0.3でも1.9倍の開きがあるんですよね。ここをスルーしたまま比較表の数字を見比べても、そりゃ答えは出ないわけです。
POINT
pipsは「値段の刻み」であって「お金の単位」じゃないんですよ。比較するなら必ず口座の通貨(日本人なら円、あるいはドル)に直してから。この一手間を入れるだけで、見え方がけっこう変わります。
1日の値動きも揃っていない
もうひとつ揃っていないのが、そもそもの値動きの大きさです。26年分の平均を出すとこうなりました。右端はそれを円に直した額です。
| 通貨ペア | 26年の平均日次変動 | 円換算(1ロット) |
|---|---|---|
| USD/JPY | 50.5 pips | 50,510円 |
| EUR/USD | 50.0 pips | 78,921円 |
| GBP/USD | 63.7 pips | 100,557円 |
| AUD/USD | 41.0 pips | 64,672円 |
| NZD/USD | 37.9 pips | 59,801円 |
| USD/CHF | 49.6 pips | 94,359円 |
| USD/CAD | 46.7 pips | 51,685円 |
面白いのが1行目と2行目で、USD/JPYの50.5pipsとEUR/USDの50.0pipsはほぼ同じなんですよ。pipsだけ見ると「同じくらい動くペア」に見えます。でも円に直すと50,510円と78,921円で、ユーロドルのほうが1.56倍大きく動いている。ここでもう結論が出てる感じですよね。
スプレッドを「1日の値動きの何%か」に直す
ここまで来たら、あとは割り算するだけです。スプレッド1.0pips分の円コスト ÷ 1日の平均変動(円)。これで「エントリーした瞬間に、その日の平均的な値動きの何%を先に失っているか」が出ます。
| 通貨ペア | 26年平均 | 直近1年 |
|---|---|---|
| USD/JPY | 1.98% | 1.77% |
| EUR/USD | 2.00% | 3.37% |
| GBP/USD | 1.57% | 2.58% |
| AUD/USD | 2.44% | 3.82% |
| NZD/USD | 2.64% | 4.26% |
| USD/CHF | 2.02% | 3.67% |
| USD/CAD | 2.14% | 3.31% |
26年平均で見ると1.57%〜2.64%で、いちばん軽いGBP/USDといちばん重いNZD/USDの差は1.68倍。まあそこそこ、という感じなんですけど。
問題は右の列です。直近1年だと、いちばん軽いUSD/JPY(1.77%)といちばん重いNZD/USD(4.26%)で2.40倍も開いています。同じ1.0pipsのスプレッドが、ペアによって2.4倍の重さで効いてくるってことなんですよね。
冒頭の「1.6pipsと1.4pips」をこの式に入れてみる
では最初の例です。USD/JPYが1.6pips、EUR/USDが1.4pipsで提示されているとして、直近1年の数字で計算します。
| 項目 | USD/JPY 1.6pips | EUR/USD 1.4pips |
|---|---|---|
| 円コスト(1ロット) | 1,600円 | 2,209円 |
| 直近1年の平均日次変動 | 56,410円 | 46,765円 |
| 値動きに占める割合 | 2.84% | 4.72% |
数字が小さいはずのEUR/USD 1.4pipsのほうが、1.67倍重いという結果でした。理由は2つの掛け算で、①1pipの価値が1.58倍、②直近1年はユーロドルのほうが動いていない、という両方が同じ方向に効いています。
注意
これは「ユーロドルが不利なペア」という話ではないです。あくまでこの水準のスプレッドとこの期間のボラティリティならこうなる、というだけ。ボラティリティは年によって平気で2倍くらい動くので、数字は定期的に入れ直してください。
なぜ今こうなっているのか:ドル円だけ動いている
この逆転が起きている一番の理由は、ここ数年ドル円だけが元気だからなんですよ。直近1年の平均変動を26年平均と比べるとこうなります。
| 通貨ペア | 26年平均に対する直近1年 |
|---|---|
| USD/JPY | 112% |
| EUR/USD | 59% |
| GBP/USD | 61% |
| AUD/USD | 64% |
| NZD/USD | 62% |
| USD/CHF | 55% |
| USD/CAD | 65% |
ドル円だけが26年平均を超えていて、他の6ペアは全部55〜65%に落ちているんですよね。年別に見ると、USD/JPYの2025年(71.7pips)は26年のうち3番目に大きい年でした(1位は2022年の75.1pips、2位が2008年の73.6pips)。逆にGBP/USDの2024年(38.1pips)は26年で最小、EUR/USDの2024年(29.3pips)は2019年に次いで2番目に小さい年です。
日本のインフレと日銀の正常化、そして米側の金利動向。この2つがぶつかってる間は、円絡みのペアだけボラティリティが高い状態が続きやすいのかなと思っています。ちなみに10月2日のドル円は157.81円で、週明けも157円台後半から158円台という水準でした。断定はできないですけど、少なくとも静かではないですよね。
じゃあ実務でどう使うのか
私が自分の口座でやってるのは、この3ステップです。難しい話ではないので、電卓でもスプレッドシートでもすぐできます。
- 自分の口座の実測スプレッドを集める。公表値ではなく、自分が実際に取引する時間帯のものを何日か記録する。ここがズレると全部ズレます
- pipsを円に直す。クロス円は「pips × 1,000円(1ロット)」。ドルストレートは「pips × 10ドル × ドル円レート」。ドルが左のペアは「pips × 10(相手通貨)÷ レート × ドル円」
- その額を、自分の狙う値幅で割る。デイトレなら1日の平均変動、スキャルなら1回の想定値幅。これで「コスト比率」が出ます
この比率が出せると、業者選びの見え方が変わるんですよね。「スプレッドが狭い業者」ではなく「自分がよく触るペアでコスト比率が低い業者」を選べばいいだけになるので。ついでにロットも揃えられます。今回の26年平均ベースだと、GBP/USDを0.50ロット、USD/CHFを0.54ロット、EUR/USDを0.64ロットにすると、ドル円1ロットと同じくらいの日々の振れ幅になる計算でした。
スキャルピングみたいに回数を打つ手法だと、この比率の差はそのまま積み上がります。仮に1.0pipsのスプレッドで月20回、1ロットずつ回したとすると、ドル円は20,000円(直近1年の平均的な1日の値動きの0.4日分)、NZD/USDは31,562円(同0.9日分)。同じ回数を打っても、取り返すのに必要な日数が倍以上違うわけです。低スプレッドを売りにしている業者を選ぶ意味は、ここにあるんだと思います。
この数字で測れていないこと
正直に書いておきます。H.10は1日1本の正午レートしか載っていないので、今回測れたのは「昨日の正午から今日の正午までの変化」だけなんですよ。
- 日中の高値安値のレンジは測れない。実際の1日の値幅は、ここで出した数字より大きいはずです
- ヒゲ・窓・瞬間的な飛びは測れない。指標発表直後の数十秒の動きは、正午同士の比較では消えます
- スプレッドの変動は入っていない。早朝や指標発表時に広がる分は、平常時の数字では過小評価になります
なので「コスト比率の絶対値」より、ペア同士の相対的な重さのほうを信じてもらったほうがいいです。そこは測り方のクセが共通なので、比較としては成立しているはずなんですよね。あと念のため、休日を挟んだ区間を除外する条件を1日・4日・10日と変えて再計算しましたが、平均値はほぼ動きませんでした(ドル円で50.7 / 50.5 / 50.5pips)。
POINT
比較表のスプレッドは「同じ土俵の数字」ではありません。pipの円価値とそのペアが実際に動く幅、この2つで割り戻して初めて比べられる数字になります。
FX取引はレバレッジを用いた取引であり、預けた資金(元本)を上回る損失が生じる可能性があります。本記事は情報提供を目的としたものであり、投資を勧誘するものではありません。取引を行う際は自己責任・余裕資金の範囲で行い、各社公式サイトで最新のリスク説明書・規約を必ずご確認ください。
まとめ
FRBのH.10で7通貨ペア・26年分(6,708営業日)を数えて分かったことを並べておきます。
- 1pipの価値はドル円1,000円に対しドルスイス1,903円で、最大1.9倍の開きがある
- 26年平均ではUSD/JPYとEUR/USDの日次変動はほぼ同じ50pips前後だが、円に直すとユーロドルが1.56倍大きい
- 1.0pipsのスプレッドが1日の値動きに占める割合は、直近1年でUSD/JPY 1.77%、NZD/USD 4.26%と2.40倍の差
- その結果、USD/JPY 1.6pipsよりEUR/USD 1.4pipsのほうが1.67倍重いという逆転が起きている
- 背景にあるのはドル円だけが26年平均を超える(112%)一方、他6ペアが55〜65%に沈んでいること
業者のスプレッド比較表そのものを否定したいわけじゃないんですよ。あれは同じペア同士を比べる分には普通に有用です。ただペアをまたいで比べた瞬間に意味を失うので、そこだけ気をつけたいなと。幸い割り算2回で済む話なので、自分の口座の数字で一度やってみる価値はあると思います。
なお今回の集計スクリプトとデータの取得元はFRB H.10のヒストリカルページです。誰でも同じ数字を再現できるので、気になる方はご自分の通貨ペアでも試してみてください。
