「最近のドル円、やたら動きますよね」って話、よく見かけるんですよね。私も正直そう感じてました。1日で100pips近く走る日が珍しくないし、体感としては完全に「荒れ相場」なんですよ。
でも、これって本当なんでしょうか。
気になったので、FRB(米連邦準備制度理事会)が公開しているH.10統計の日次為替レートを2000年1月から2026年10月16日まで26年分落としてきて、1日あたりの変動幅を全部数えてみました。ドル円だけじゃなくて、ユーロドル・ポンドドル・豪ドル米ドル・ドルスイス・ドルカナダの6ペア分です。営業日にして各ペア6,717日、差分にして6,716件。
結果、2026年のドル円は、26年のうち下から4番目に静かな年でした。体感と真逆だったんですよね。
そして数えていくうちに、「じゃあロットはどう決めればいいのか」という、もっと実用的な答えのほうが出てきてしまったので、そっちも合わせて書きます。
何をどう数えたか
使ったのはFRBのH.10統計(federalreserve.gov/releases/h10/hist/)です。ニューヨーク正午時点の為替レートを、FRB自身が1日1本ずつ公開しているやつなんですよね。業者のレートじゃなくて中央銀行の公式データなので、裏取りの必要がないのが強いです。
ここから「前営業日の正午から今日の正午までの差」を全部取って、絶対値をpipsと%の両方で集計しました。使ったスクリプトは記事末尾のメモに置いてあります。
注意
H.10は1日1本のデータなので、ここで測っているのは正午から正午までの差であって、日中の高値−安値レンジではありません。午前に上がって午後に戻した往復は打ち消されて消えます。つまり実際の日中レンジより小さく出ます。年どうしの比較や推移を見る用途では問題ないんですけど、この記事の数字をそのままストップ幅として使うと足りません。そこは最後にもう一度触れます。
結論1: 「今年は動いてる」はpipsの錯覚だった
まず、ドル円の年別平均をpipsと%の両方で並べるとこうなります。荒れた年と静かな年を抜き出したものです。
| 年 | 平均変動幅(pips) | 平均変動率(%) | 平均の為替水準 |
|---|---|---|---|
| 2008 | 73.6 | 0.718 | 103.4円 |
| 2009 | 60.3 | 0.643 | 93.7円 |
| 2022 | 75.1 | 0.562 | 131.5円 |
| 2024 | 71.2 | 0.472 | 151.5円 |
| 2025 | 71.7 | 0.481 | 149.6円 |
| 2026(年初来) | 52.7 | 0.333 | 158.5円 |
| 2019 | 27.8 | 0.255 | 109.0円 |
| 2021 | 28.8 | 0.262 | 109.8円 |
ここが面白いところなんですけど、2026年はpips基準だと27年中10位(つまり上位)なのに、%基準だと24位(つまり下から4番目)なんですよね。順位が14個もズレてます。
理由は単純で、ドル円の水準が158円まで上がっているからです。158円の0.3%は47pips、108円の0.3%なら32pipsにしかなりません。同じ「率」でも、水準が高いほどpipsの数字は勝手に大きくなるんですよ。
26年を前半13年と後半13年で割ると、これがもっとはっきり出ます。pipsで見ると49.9 → 50.9pipsでほぼ横ばい(1.02倍)。ところが%で見ると0.476% → 0.413%で、むしろ0.87倍に下がっている。チャートを見たときの体感はpipsなので、「昔より動くようになった」と感じるのは自然なんですけど、資金に対するリスクという意味ではそうじゃないんですよね。
POINT
ボラティリティを語るときは、pipsなのか%なのかを必ず区別すること。円安が進んだ局面では、ボラが上がっていなくてもpipsの数字だけは膨らみます。
結論2: ボラは年で2.8倍違うし、他のペアに逃げても同じ
%基準で見たドル円の年別平均は、一番荒れた2008年が0.718%、一番静かだった2019年が0.255%。2.81倍の差があります。pips基準でも2022年75.1pipsと2019年27.8pipsで2.71倍。どっちで測っても、年によって3倍近く違う世界なんですよね。
これ、ドル円だけの話なのかなと思って他の5ペアも同じように数えてみたんですけど、結果はこうでした。
| 通貨ペア | 最も荒れた年 | 最も静かな年 | 倍率 |
|---|---|---|---|
| USD/JPY | 2008年 0.718% | 2019年 0.255% | 2.81倍 |
| EUR/USD | 2008年 0.637% | 2019年 0.230% | 2.77倍 |
| GBP/USD | 2009年 0.745% | 2014年 0.248% | 3.01倍 |
| AUD/USD | 2008年 1.064% | 2019年 0.337% | 3.16倍 |
| USD/CHF | 2008年 0.712% | 2019年 0.263% | 2.71倍 |
| USD/CAD | 2008年 0.715% | 2024年 0.214% | 3.34倍 |
全ペアで2.7〜3.3倍。しかもドル円の年別ボラと他ペアの年別ボラの相関係数は +0.60〜+0.73で、かなりきれいに連動してます。荒れる年は全部一緒に荒れるし、凪ぐ年は全部一緒に凪ぐんですよ。
これ、何が言いたいかというと、「ドル円が荒れてるから静かな通貨ペアに移る」という逃げ方は、データ上ほとんど機能しないということなんですよね。ペアを変えるんじゃなくて、サイズを変えるしかない。ちなみに2026年は全6ペアがそろって静かな側で、ドルカナダに至っては27年中26位です。
結論3: 「8月は荒れる」みたいな季節性は出なかった
次に「カレンダーで読めないか」も試しました。夏枯れとか年末は動かないとか、定番の話ってあるじゃないですか。26年分を月ごとにまとめた結果がこれです。
| 月 | 平均変動率(%) | 全体平均との比 | 1%超えた日の割合 |
|---|---|---|---|
| 1月 | 0.482 | 1.08 | 12.8% |
| 2月 | 0.457 | 1.03 | 9.5% |
| 3月 | 0.489 | 1.10 | 11.7% |
| 4月 | 0.433 | 0.97 | 8.1% |
| 5月 | 0.434 | 0.98 | 8.0% |
| 6月 | 0.438 | 0.99 | 8.6% |
| 7月 | 0.435 | 0.98 | 9.6% |
| 8月 | 0.434 | 0.98 | 8.2% |
| 9月 | 0.428 | 0.96 | 8.9% |
| 10月 | 0.423 | 0.95 | 7.3% |
| 11月 | 0.443 | 1.00 | 8.3% |
| 12月 | 0.436 | 0.98 | 8.3% |
一番上の3月(0.489%)と一番下の10月(0.423%)で、たった1.16倍。年による差が2.8倍あったのに対して、月による差はほぼ誤差なんですよね。
しかも安定していません。たとえば3月が全体平均を上回った年は27年中15年。コインを投げたのとほとんど変わらないんですよ。8月に至っては27年中11年しか上回っていないので、「夏は荒れる」はこのデータからは支持されませんでした。
つまり「来月は動きそうだからロットを落とす」みたいなカレンダー起点の調整には、根拠がないということになります。この辺は五十日や月末のアノマリーを26年分で検証した記事でも似た結論になっていて、わりと一貫してるんですよね。
本題: 固定ストップだと「刺され率」が4倍ブレる
で、ここからが実は一番使える話です。
ボラが年で3倍違うのに、ストップ幅やロットを固定したままだとどうなるか。「翌日の変動幅がストップ幅を超えた日の割合」(ここでは刺され率と呼びます)を、年ごとに数えてみました。
比べたのは2つのやり方です。
- A: 固定50pips(26年の平均が50.2pipsなので、ほぼ全期間平均の固定値)
- B: 直近20営業日の平均変動幅(毎日計算し直して、その幅をストップにする)
| 年 | A: 固定50pipsの刺され率 | B: 直近20日連動の刺され率 |
|---|---|---|
| 2008 | 59.1% | 42.1% |
| 2012 | 18.7% | 44.2% |
| 2019 | 14.5% | 39.4% |
| 2021 | 16.1% | 40.6% |
| 2025 | 56.8% | 42.4% |
| 2026 | 35.7% | 34.2% |
| 26年のレンジ | 14.5%〜59.1%(4.09倍) | 34.2%〜44.4%(1.30倍) |
固定ストップは、年によって刺され率が14.5%から59.1%まで、4倍以上ブレます。2019年は10回に1.5回しか止まらないのに、2008年は10回に6回止まる。同じルールで回しているのに、損切りの頻度が勝手に4倍変わるってことなんですよ。
一方、直近20営業日の平均に連動させると34.2%〜44.4%の1.30倍に収まります。標準偏差で見ても12.5ポイント → 2.3ポイントなので、だいたい5分の1に圧縮できてます。
ここ、ちょっと注意が必要なんですけど、これは「翌日の値動きを予測できる」という話ではありません。実際、翌日の変動幅そのものをどれだけ当てられるかを平均絶対誤差で測ると、直近20日を使っても全期間平均を使っても96%対100%で、ほとんど改善しないんですよ。予測は当たらないんです。
でも「どのくらいの頻度で止められるか」という設計値のほうは、ちゃんと揃えられる。当てにいくんじゃなくて、自分のルールの効き方を一定に保つ、という発想ですね。個人的にはここが一番の収穫でした。
ちなみに「もっと刺されたくない」なら、平均じゃなくて直近20日の90パーセンタイル(上から2番目に大きい日のあたり)を使う手もあります。これだと26年通して刺され率13.4%、年別レンジ11.1%〜17.2%でした。狙った水準に落とせるんですよね。
ロットのほうも同じ理屈でズレる
ストップが固定ということは、ロットが固定ならリスク額も固定ですけど、実際には逆で、ロットを固定したままだと「1日の平均的な値動きで何円やられるか」が年ごとに変わります。
資金10万円で0.1ロット(1万通貨)を固定した場合、その年の平均日次変動幅ぶん逆行したときの損失額はこうなります。
| 年 | 平均変動幅 | 0.1ロット固定時の損失 | 資金比 |
|---|---|---|---|
| 2019 | 27.8pips | 2,776円 | 2.78% |
| 2021 | 28.8pips | 2,881円 | 2.88% |
| 2026 | 52.7pips | 5,268円 | 5.27% |
| 2008 | 73.6pips | 7,359円 | 7.36% |
| 2022 | 75.1pips | 7,512円 | 7.51% |
2.78%〜7.51%で2.7倍の開き。「リスクは資金の2%まで」と決めているつもりでも、ロットを固定している限り、その2%は年によって勝手に伸び縮みしてるんですよね。
なので、逆算するならこうなります。資金に対するリスク許容を2%にして、ストップ幅から適正ロットを出す早見表です(ドル円1ロット=10万通貨、1pips=1,000円で計算)。
| ストップ幅 | 資金10万円 | 資金30万円 | 資金50万円 | 資金100万円 |
|---|---|---|---|---|
| 30pips | 0.067 | 0.200 | 0.333 | 0.667 |
| 40pips | 0.050 | 0.150 | 0.250 | 0.500 |
| 50pips | 0.040 | 0.120 | 0.200 | 0.400 |
| 60pips | 0.033 | 0.100 | 0.167 | 0.333 |
| 70pips | 0.029 | 0.086 | 0.143 | 0.286 |
| 80pips | 0.025 | 0.075 | 0.125 | 0.250 |
表を見ると分かるんですけど、資金10万円だと、ロットの刻みが粗い口座では調整しきれません。0.067と0.040の差を表現するには0.01刻みが要るわけで、0.1刻みの口座だと「0.1か0か」の二択になってしまうんですよね。この辺はMT5のロット刻みを公式リファレンスで確認した記事でも数えたんですけど、刻みが粗いと計算上の適正ロットを超えざるを得ないケースがけっこう出ます。
なので口座を選ぶときは、最大レバレッジより先に最小ロットとロットの刻み幅を見たほうがいいと思うんですよ。条件は変更されることがあるので、最新の仕様は必ず公式サイトで確認してください。
この集計の限界
正直に書いておきます。
一番大きいのは最初の注意ボックスに書いたとおりで、H.10は正午の値が1日1本しかないので、日中の高値−安値レンジは測れていません。午前に80pips下げて午後に80pips戻した日は、このデータ上「変動ゼロ」になります。なのでここで出した「平均50pips」みたいな数字は、実際の日中レンジよりかなり小さいと思っておいてください。
実務でストップ幅を決めるなら、同じ考え方をATR(真の値幅の平均)など日中レンジを拾う指標でやり直すのが筋です。この記事が言えるのは「年で3倍違う」「カレンダーでは読めない」「直近の実測に連動させると刺され率が安定する」という構造の話までで、具体的な数値をそのまま使う話ではありません。
あともう1つ。刺され率の集計は過去26年のデータに当てはめただけの結果で、将来も同じように収まる保証はないです。あくまで「固定よりはマシだった」という実測です。
今後の注目ポイント
2026年は全6ペアが静かな側に振れている年なんですけど、直近20営業日(2026年10月16日まで)のドル円の平均変動幅は39.1pips・0.248%で、年初来の52.7pipsよりさらに落ちています。
過去26年を見ると、こういう凪はだいたい長く続かないんですよね。2021年に0.262%まで沈んだ翌年の2022年は0.562%、pipsだと28.8 → 75.1で2.6倍に跳ねています。もちろん「だから来年は荒れる」と言いたいわけじゃなくて、静かな時期に組んだロットのまま放置すると、相場が戻ったときにリスクだけが勝手に膨らむという話です。
見るべきは予想や見通しじゃなくて、自分の口座の数字のほうだと思うんですよ。具体的には、
POINT
① 直近20営業日の平均変動幅を月1回でいいので計算し直す ② ストップ幅をそれに合わせて更新する ③ 資金×リスク許容%÷(ストップ幅×pip価値)でロットを引き直す。この3つを回すだけで、刺され率のブレは実測で4.09倍 → 1.30倍まで縮みました。
あと「体感」はアテにならないという話もそのままで、今年みたいに水準が高い年はpipsが膨らむので荒れて見えます。迷ったら%に直して比べるのがおすすめです。
まとめ
FRBのH.10統計で26年・6,716日分を数えた結果をまとめると、こうなります。
- 2026年のドル円はpips基準だと27年中10位だが、%基準だと24位。水準が158円まで上がったぶんpipsが膨らんでいるだけで、実際は下から4番目に静かな年だった
- 年別のボラは全6ペアで2.7〜3.3倍の開きがあり、しかも各ペアの年別ボラは相関+0.60〜+0.73で連動する。ペアを変えて逃げる作戦は効きにくい
- 月ごとの季節性は最大1.16倍しかなく、安定もしていない。「8月は荒れる」は27年中11年しか当たっていない
- 固定50pipsのストップは刺され率が14.5%〜59.1%(4.09倍)までブレる。直近20営業日の平均に連動させると34.2%〜44.4%(1.30倍)に収まった
- ただし翌日の変動幅そのものは、何を使ってもほとんど当たらない。当てにいくのではなく、刺され率という設計値を一定に保つ使い方をするもの
「相場が読めないならサイズで管理する」って、言葉では何度も聞いてきたんですけど、26年ぶんを自分で数えてみて初めて腹落ちした感じがあります。予測が当たらないことと、リスクを一定に保てないことは、別の問題なんですよね。後者はちゃんと手を打てる。
月に1回、直近20営業日の平均を計算し直すだけなら5分もかからないので、よかったら試してみてください。
データ出典: Federal Reserve Board, H.10 Foreign Exchange Rates(Historical Rates, 2026年10月19日付リリース)。集計期間は2000年1月3日〜2026年10月16日、各通貨ペア6,717営業日。休場日(ND表記)273件は除外。
