来週の火曜、10月20日は五十日(ごとおび)です。その次の金曜10月23日も、月末の10月30日も五十日。10月の後半は五十日が3回も並んでるんですよね。
で、この時期になると必ず出てくるのが「五十日は円安になりやすいから、朝のうちに買っておけばいい」という話。私も最初に聞いたときは「へえ、そんな癖があるんだ」と素直に信じてました。
ただ、よく考えると誰もこれを数えた結果として見せてくれないんですよ。「輸入企業の決済が集中するからドル買いが出る」という理屈の説明までは出てくるんですけど、「じゃあ実際に何年ぶん数えて、平均で何pips動いたの?」という肝心のところが抜けてる。
というわけで、今回はそこを自分で数えました。ドル円の26年分・6,712営業日を使って、五十日1,849日とそれ以外を比べています。結論から言うと、五十日のドル円は確かに平均でプラス(円安)なんですけど、その差は誤差の幅より小さくて、しかも同じ動きがユーロドルやポンドドルにも出ていました。
使ったデータと、五十日の定義
まずネタ元から。今回使ったのは全部、公的機関が無料で出している一次ソースです。
- 為替レート: 米FRBが出しているH.10(Foreign Exchange Rates)のヒストリカルデータ。ニューヨーク正午(12:00 ET)の買値で、2000年1月3日〜2026年10月9日まで6,713営業日ぶん。ここからドル円・ユーロドル・ポンドドル・豪ドル米ドルの4本を取りました
- 日本の祝日: 内閣府が公開している「国民の祝日」CSV。1955年以降の全1,067件
五十日の定義がちょっと面倒なんですけど、ここは丁寧にやりました。五十日って「5の倍数の日(5・10・15・20・25・月末)」なんですが、その日が土日や祝日だと決済は前の営業日に前倒しされるんですよね。だから単純に「毎月5日・10日…」で数えると実態とズレます。
そこで、内閣府の祝日データに加えて12月31日〜1月3日の銀行休業も休みとして扱い、基準日が休みなら直前の営業日まで遡る、という処理を入れました。実際にどれくらい前倒しが発生するかというと、基準日1,944件のうち634件、32.6%。3回に1回は前倒しなので、これを無視したらそもそも検証になりません。
POINT
H.10はニューヨーク正午のレートなので、日本時間だと翌日の午前1時〜2時ごろにあたります。つまり「前日のH.10 → 当日のH.10」という変化を取ると、その日の東京時間がまるごと中に入ります。五十日の仲値(9:55)もちゃんと含まれるので、検証の土俵としては成立しています。
結果1: 五十日のドル円は、確かにプラス。ただし誤差のほうが大きい
まず素直に、五十日とそれ以外で日々の変化を比べた結果がこれです。ドル円なのでプラス=円安。pipsは現在のレート(158円台)に換算した値です。
| 区分 | 日数 | 平均変化 | pips換算 | 円安率 |
|---|---|---|---|---|
| 五十日 | 1,849日 | +0.0266% | +4.21pips | 52.35% |
| それ以外 | 4,863日 | +0.0017% | +0.26pips | 50.52% |
| 差 | — | +0.0249% | +3.94pips | +1.83pt |
見ての通り、方向としては言い伝えどおりなんですよ。五十日のほうが円安に振れやすくて、上がった日の割合も52.35%と半分を超えています。ここだけ見ると「お、やっぱり本当じゃん」と思いますよね。
でも問題はここから。この+3.94pipsという差に、どれくらい誤差が乗っているかです。計算すると±5.54pips(2標準誤差)。つまり誤差の幅のほうが差より大きいんですよね。統計的には「差があるとは言い切れない」側です。
もっと直感的な数字も出しておくと、五十日1日ぶんの値動きのバラつき(標準偏差)は103.4pipsあります。103pips揺れる中から4pipsの偏りを拾おうとしている、という絵なんですよ。これ、26年ぶん数えてようやくこの精度なので、半年や1年の検証だと符号すらまともに出ません。
結果2: 25日だけ、なぜか逆を向いている
次に、五十日を基準日のタイプ別に割ってみました。
| 基準日 | 日数 | 平均変化 | 円安率 | 平均変動幅 |
|---|---|---|---|---|
| 5日 | 307 | +0.0540% | 54.7% | 0.4886% |
| 10日 | 320 | +0.0399% | 53.1% | 0.4530% |
| 15日 | 314 | +0.0349% | 52.2% | 0.4408% |
| 20日 | 308 | +0.0511% | 54.9% | 0.4497% |
| 25日 | 290 | -0.0240% | 49.0% | 0.3926% |
| 月末 | 318 | -0.0041% | 50.0% | 0.4956% |
5日・10日・15日・20日はプラスで揃ってるのに、25日だけマイナス、月末もほぼゼロ。給料日が多い25日こそ決済が集中しそうなのに、むしろ逆を向いてるんですよね。
ここで「25日は逆張りだ!」と言いたくなるんですけど、落ち着いてください。1つの基準日あたり290〜320日しかないので、誤差の幅は±0.07〜0.08%(=±11〜13pips)もあります。どの行も誤差の中に完全に収まっていて、6本の棒がたまたまこう並んだ、以上のことは言えないんですよ。年代を前半(2000-2012)と後半(2013-2026)に割ると25日のマイナスは-0.0395%から-0.0093%へ薄まるので、「25日の癖」として固定されているようにも見えません。
結果3: 同じ動きが、ユーロドルにもポンドドルにも出ている
ここが今回いちばん面白かったところなんですけど、対照群を取ってみたんですよ。
というのも、五十日って日本固有の商習慣じゃないですか。日本の輸入企業が5の倍数の日に決済する、という話なので、本当にそれが原因なら円が絡まないペアには出ないはずなんですよね。逆に言うと、ユーロドルやポンドドルにも同じだけ出てしまったら、それは「五十日の円売り」では説明できません。
で、結果がこれです。ユーロドル・ポンドドル・豪ドル米ドルはドルが右側の建値なので、マイナス=ドル高です。ドル円のプラス(=ドル高)と向きが逆になる点だけ注意してください。
| 通貨ペア | 五十日との差 | 誤差(±2SE) | ドルの向き |
|---|---|---|---|
| USD/JPY | +0.0249% | ±0.0350% | ドル高 |
| EUR/USD | -0.0372% | ±0.0319% | ドル高 |
| GBP/USD | -0.0356% | ±0.0330% | ドル高 |
| AUD/USD | -0.0315% | ±0.0425% | ドル高 |
4本とも、五十日にドルが強いという同じ向きなんですよ。しかもユーロドル(-0.0372%)とポンドドル(-0.0356%)のほうが、ドル円(+0.0249%)より差が大きい。ドル円だけが誤差に埋もれていて、ユーロドルとポンドドルは誤差の幅をわずかに超えています。
これ、五十日の説明としては結構まずいんですよね。日本の輸入企業の決済が原因なら、ドル円にいちばん強く出てユーロドルにはほとんど出ないはずなのに、実際は真逆になってる。つまり「五十日に円が売られている」のではなく「5の倍数の日の前後にドルが買われやすい」という、もっと広い何か(あるいはただの偶然)を見ている可能性が高いです。
注意
対照群で同じ動きが出たからといって、「五十日の実需フローは存在しない」と証明できたわけではありません。言えるのは「日足で見るかぎり、五十日に特有と呼べる動きは取り出せなかった」までです。ここを超えて断定するとただの決めつけになるので、私はそこまでは書きません。
結果4: 翌営業日に、3分の2を返している
もうひとつ気になったので、五十日の翌営業日も数えました。
結果は-0.0173%(=-2.73pips)。五十日当日の+4.21pipsのうち、約3分の2が翌日に戻されている計算です。2日ぶんを合計すると+1.48pipsしか残りません。
これ、「五十日の朝に買って夕方に決済する」という元の言い伝えとは矛盾しないんですよ。むしろ実需フローが一巡したら戻るという理屈とは整合的です。ただ裏を返すと、持ち越した瞬間に優位性が消えるということでもあるんですよね。日をまたいで放置する使い方はできません。
結果5: そもそも、時期によって出たり消えたりする
26年を3つに割って、五十日の差がどう推移したかを見てみました。
| 期間 | 五十日との差 | pips換算 | 誤差(±2SE) |
|---|---|---|---|
| 2000-2008 | +0.0079% | +0.90pips | ±0.0606% |
| 2009-2016 | +0.0682% | +6.60pips | ±0.0711% |
| 2017-2026 | +0.0052% | +0.66pips | ±0.0517% |
全体の+3.94pipsという数字、ほぼ2009〜2016年だけで稼いでいるんですよね。その前後の期間はほとんどゼロ。直近10年(2017-2026)に限れば差は+0.66pipsで、これはもうスプレッド1本ぶんにも届きません。
年ごとに見ても、27年のうちプラスだったのは17年(63.0%)。いちばん強かった2013年が+0.1866%、いちばん弱かった2007年が-0.0871%で、年によって符号がひっくり返ります。「毎年安定して効くクセ」という姿ではないです。
ついでに検証: 「月末は動く」のほうはどうなのか
せっかくデータを組んだので、もうひとつの定番「月末は実需が出るから動く」も測りました。こちらは方向(円安/円高)ではなく変動幅(絶対値)で見ます。平常日を1.000とした比率です。
| 区分 | 日数 | 平均変動幅 | 平常比 |
|---|---|---|---|
| 平常日 | 6,068 | 0.4404% | 1.000 |
| 月の最終営業日 | 322 | 0.4835% | 1.098 |
| 月の第1営業日 | 322 | 0.4819% | 1.094 |
| うち四半期末 | 107 | 0.3918% | 0.890 |
月末の最終営業日は平常より約1割よく動いていました。ここは言い伝えどおりなんですよ。しかも月初の第1営業日もほぼ同じ1.09倍なので、「動くのは月末というより月のつなぎ目」という感じです。
面白いのは四半期末がむしろ静か(0.890倍)だったこと。「四半期末はもっと実需が出るから荒れる」とよく言われるのに、ドル円の日足では逆でした。ただこちらは107日しかないので、誤差は大きめに見ておいてください。
あと、月末の「手前」は平常より静かなのも分かりました。最終営業日から数えて4営業日前が0.93倍、5営業日前が0.83倍。「月末が近いから身構える」という感覚とは逆で、動くのは本当に最後の1日だけなんですよね。
取引条件の話: 4pipsの優位性は、コストに耐えられるのか
ここまでの数字を、実際のコストに当ててみます。五十日のドル円の期待値がいちばん甘く見積もって+4.21pips/日。ここから往復のスプレッドを引くとこうなります。
| 往復スプレッド | 手残り(期待値) | コストが食う割合 |
|---|---|---|
| 0.2pips | +4.01pips | 5% |
| 0.6pips | +3.61pips | 14% |
| 1.0pips | +3.21pips | 24% |
| 1.6pips | +2.61pips | 38% |
| 2.0pips | +2.21pips | 48% |
スプレッドが2.0pipsあると、期待値の約半分が入口で消えます。0.2pipsなら5%で済む。同じ戦略でも、口座のコスト次第で手残りが倍近く変わるんですよね。
ただ、ここで強調しておきたいのは「コストを下げれば五十日トレードが成立する」という話では全くないということです。そもそも期待値+3.94pipsに対して誤差が±5.54pips、直近10年では+0.66pipsしかない。優位性がマイナスかもしれない勝負で、コストだけ下げても意味がありません。
むしろこの計算から学べるのは逆方向で、「数pips単位の優位性を狙う手法は、そもそもコストに対して脆すぎる」ということなんですよ。日々のバラつきが103pipsある世界で数pipsを取りにいくなら、1日の値幅の数%を毎回コストに持っていかれる構造そのものを先に直すべきです。ここは以前、当サイトの「スプレッドをpipの円価値と日次変動で割り戻した記事」でも同じ結論になりました。
この検証で測れていないこと(正直に書きます)
ここは誤魔化さずに書いておきます。今回のデータは1日1本のレートなので、日中の往復は測れません。
五十日の言い伝えって、本来は「午前中の仲値に向けて上がって、午後に戻す」という日中のパターンの話なんですよね。もしそれが本当にあったとしても、前日の同時刻と当日の同時刻を比べる今回の方法では行って戻った分が打ち消されて、何も残りません。
だから今回の結果は「五十日のアノマリーは嘘だった」ではないんですよ。正確には「日足で取れるような形では存在しない」です。で、個人トレーダーにとってはこれ、実務的にはかなり大きい話だと思っていて——日足チャートを見て五十日を判断する使い方は成立しない、ということなので。仲値狙いをやるなら分足で自分のブローカーの実レートを記録するところからやり直しになります。
POINT
今回の数字はすべてFRB H.10(公表値)と内閣府の祝日CSVから取得して自分で集計したもので、他サイトの検証結果の引用はありません。集計に使ったスクリプトの条件(五十日の前倒し判定・欠損日の扱い)も本文中に明記しています。ご自身で再計算したい方は同じ2つのデータで再現できます。
今後の注目ポイント: 10月後半の五十日カレンダー
最後に、実際のカレンダーを置いておきます。内閣府の祝日データから前倒しまで込みで計算したものです。
| 日付 | 曜日 | 基準日 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 10月20日 | 火 | 20日 | 前倒しなし |
| 10月23日 | 金 | 25日 | 25日が日曜のため前倒し |
| 10月30日 | 金 | 月末 | 31日が土曜のため前倒し |
10月は月末の31日が土曜なので、30日(金)が「五十日かつ月末の最終営業日」になります。今回のデータでいうと、月の最終営業日は平常より1.1倍ほど動きやすい日です。方向は読めませんが、いつもより振れやすい日だという前提でポジションサイズを考えておくくらいが現実的な使い方だと思います。
ちなみに10月12日はスポーツの日で日本が休みでしたが、米銀は開いていたので為替は普通に動いていました。このあたりの話は当サイトの「日米同時の祝日でも為替は止まらない件」の記事でまとめています。
注意
このカレンダーは決済の慣習上の基準日を機械的に計算したものです。実際にどの日に実需フローが出るかは企業ごとに違いますし、特定の日の値動きを予告するものでもありません。
まとめ
26年・6,712営業日を数えた結論を並べておきます。
- 五十日のドル円は平均+4.21pips(円安)、それ以外の日は+0.26pips。差は+3.94pipsだが、誤差は±5.54pipsで差があるとは言い切れない
- 同じ五十日にユーロドル・ポンドドル・豪ドル米ドルもドル高に振れていて、しかもユーロドル(-0.0372%)のほうがドル円より差が大きい。円特有の動きとしては取り出せなかった
- 五十日の翌営業日に-2.73pips戻すので、2日持つと+1.48pipsしか残らない
- 差のほとんどは2009-2016年に偏っていて、直近10年では+0.66pipsとほぼ消えている
- 「月末は動く」のほうは本当で、最終営業日は平常の1.098倍。ただし四半期末は逆に0.890倍と静かで、月末の手前4〜5営業日も平常より静か
- 日足では日中の往復が測れないので、「仲値の時間帯に癖がない」とまでは言えない
正直、検証を始めたときは「どうせ何も出ないだろう」と思ってたんですけど、対照群のユーロドルのほうが差が大きかったのは予想外で、ちょっと声が出ました。こういうのがあるから自分で数えるのはやめられないんですよね。
五十日みたいな「みんなが知ってるアノマリー」は、信じるか疑うかの二択で語られがちなんですけど、必要なのは数えることと、対照群を取ることだと思います。ドル円だけ見ていたら、私も「52%で円安だから本当だ」で止まっていました。
出典: 米連邦準備制度理事会(FRB)「H.10 Foreign Exchange Rates」ヒストリカルデータ(2000年1月3日〜2026年10月9日)、内閣府「国民の祝日について」CSV。集計および比率の計算は筆者によるものです。レートは各日のニューヨーク正午買値で、米銀休業日は集計から除外しています。
