経済指標カレンダーって、1行ずつきれいに並んでるじゃないですか。だから何となく「指標は1本ずつ順番に出てくるもの」って思い込んでたんですよね、私。
でも実際は全然そんなことなくて、同じ分に何本もまとめて飛んでくるんですよ。しかも重なってるときほど「結果を見てから入る」が原理的に無理になる。今回はそれを、カレンダー31週分を全部数えて確かめてみました。
結論から言うと、発表の47.4%は「自分ひとりだけの分」に出ていませんでした。ほぼ半分です。
何を数えたのか
使ったのはみんかぶFXの経済指標カレンダー(fx.minkabu.jp/indicators)。2026年4月6日の週から11月7日まで、31週分を全部取ってきて集計しました。
数えるときに大事なのが「何を1件とするか」なんですけど、ここを雑にやると数字が全然変わっちゃうんですよね。カレンダーは1回の発表を複数行に割って表示するので(たとえば日本のGDPなら「前期比」「前期比年率」「GDPデフレータ」で3行)、行をそのまま数えると水増しになります。
POINT
今回は3段階に分けて数えました。行(指標の1系列)が2,404、発表イベント(日付・時刻・国・指標が同じもの)が1,411、そして「分」のスロットが1,008。行はイベントの1.70倍に膨らむので、行で数えると「今日は指標が多い」の感覚がズレます。
1,411回の発表が、1,008個の「分」に押し込まれている
まずここが面白かったんですけど、1,411回の発表が入る「分」は1,008個しかないんですよ。つまり平均で1.4本が同じ時刻に重なってる計算になります。
内訳はこんな感じでした。
| 同じ分に入っている発表の本数 | スロット数 |
|---|---|
| 1本(単独) | 742 |
| 2本 | 177 |
| 3本 | 58 |
| 4本 | 18 |
| 5本 | 10 |
| 6本 | 2 |
| 7本 | 1 |
2本以上が重なっている分は266個(26.4%)。スロット単位だと4分の1ですけど、発表の側から見ると話が変わります。混んでる分には複数の発表が入ってるので、1,411回のうち669回(47.4%)が「他の発表と同じ分」に出ているんですよね。
最大は7本同時。2026年10月15日の21:30がそれで、米小売売上高(★5)・米PPI(★3)・NY連銀製造業(★3)・フィラデルフィア連銀景況(★4)・米新規失業保険申請(★3)に、カナダの製造業売上高と卸売売上高(どちらも★2)が重なってました。7本が同じ1分です。
★4がいちばん「ひとりじゃない」
で、ここからが個人的にいちばん意外だったところなんですけど。重要度★ごとに「その分に自分しかいない率」を出してみたら、きれいな順番にならなかったんですよ。
| 重要度 | 発表回数 | 単独だった回数 | 単独率 |
|---|---|---|---|
| ★1 | 82 | 57 | 69.5% |
| ★2 | 496 | 291 | 58.7% |
| ★3 | 590 | 281 | 47.6% |
| ★4 | 189 | 81 | 42.9% |
| ★5 | 54 | 32 | 59.3% |
★1から★4に向かってどんどん単独率が下がっていって、★4は57.1%が他の発表と同居しています。重要な指標ほど「ついでに他のも出る」時間帯に置かれてるんですよね。たぶん各国の統計局が21:30とか15:00みたいなキリのいい時刻にまとめて出してるからだと思います。
★5だけ単独率が59.3%に戻るのは、FOMCとか雇用統計みたいな「それ単体で枠を取る」イベントが多いからでしょうね。ただ★5でも4割は同居してます。
繰り返し出てくる組み合わせで断トツだったのがアメリカ+カナダ(31週で43回)。これ、米加の雇用統計が同じ21:30(または22:30)にぶつかる月が年に何回もあるからなんですよ。
「結果を見て入る」が無理な理由
ここが今回いちばん書きたかったところなんですけど。
同じ分に複数出るってことは、結果の数字も同時に複数出るわけです。それが全部そろって上振れ・下振れしてくれるなら一目で判断できるんですけど、実際はどうなのか数えてみました。
予想と結果が両方ある行を使って「予想より上か下か」の符号を取り、同じ分の発表同士で向きがそろっているかを見ます。判定できたのは186スロット。結果は——
- 向きが食い違ったスロット: 82個(44.1%)
- 向きがそろったスロット: 100個(53.8%)
- 全部が予想ぴったり: 4個(2.2%)
同じ分に複数の指標が出るとき、4割以上は上振れと下振れが混ざっています。
さっきの10月15日21:30が分かりやすい例です。米小売売上高は予想0.3%に対して0.8%で上振れ、米PPIも0.5%に対して1.3%で大幅上振れ、NY連銀も12.5に対して25.5で上振れ。ここまでは「強い」で統一なんですけど、フィラデルフィア連銀だけ予想26.8に対して20.9で下振れしてるんですよ。カナダも製造業売上高が上振れで卸売売上高が下振れ。
この7本を1秒で読み取って方向を決めろって、正直どう考えても無理なんですよね。
しかも厄介なのが、1回の発表の中でも数字がそろわないこと。同じ指標のサブ系列同士(GDPの前期比と年率、みたいな)で向きを比べたら、判定できた452件のうち88件(19.5%)で食い違っていました。5回に1回は、1本の指標の中ですら強弱が割れてるってことなんですよ。
注意
ここで数えている符号は「予想に対して数字が上か下か」だけです。失業率みたいに「高いほど悪い」指標もあるので、上振れ=その通貨が強い、とは限りません。あくまで「一目では向きが決まらない」ことの材料として見てください。
じゃあ「混んでる時刻ほど荒れる」のか? → 数えたら違った
実は以前の記事で私、「★の数より、その時刻に何本重なってるかを見たほうがいい」って書いたんですよね。カレンダーの行数を数えるだけだから誰でもできるし、と。
今回ちゃんと測ってみたら、これがそんなに単純じゃありませんでした。
カレンダーの「前回ドル円変動幅」列(発表から10分後にドル円が何pips動いたか)を使うんですけど、この列はその行の回じゃなくて「ひとつ前の回」の値動きを指してます。なので系列ごとに日付順に並べ直して、1つ前のスロットに付け替えてから集計しました。
| 同時発表の本数 | 件数 | 変動幅の中央値 | 上位10%の水準 | 20pips以上だった割合 |
|---|---|---|---|---|
| 1本(単独) | 599 | 2.6pips | 9.8pips | 3.2% |
| 2本 | 153 | 3.4pips | 11.2pips | 2.6% |
| 3本以上 | 78 | 4.0pips | 12.0pips | 0.0% |
中央値だけ見ると2.6→3.4→4.0pipsと上がってるので、一見「混んでるほど動く」に見えます。でも20pips以上の大きい動きの割合は、むしろ3.2%→2.6%→0.0%と下がってるんですよ。3本以上重なったスロット78個のうち、20pips以上動いたのはゼロでした。
★5だけで比べるともっとはっきりします。★5が単独で出た27回は中央値6.9pips・20pips以上が22.2%だったのに対して、★5が他と重なった3本以上の10回は中央値5.8pips・20pips以上は0%。件数が少ないので強くは言えないんですけど、少なくとも「混んでる=危ない」の方向ではないんですよね。
言われてみれば納得で、本当にヤバい指標は単独で枠を取るわけです。混んでる21:30は「ついでに出てる★2・★3が頭数を増やしてるだけ」のことが多い。前に書いた「行数を数えればいい」は、残念ながら雑すぎたと思います。訂正します。
混雑が効いてくるのは値幅じゃなくて「読めなさ」
じゃあ同時発表を気にしなくていいかというと、そうでもないと思ってます。効いてくるポイントが値幅じゃないだけなんですよね。
たとえば2026年8月7日の21:30は、米雇用統計(★5)とカナダ雇用統計(★3)が同じ分でした。このときドル円は124.8pips動いてるんですけど、値動きは1本しかないのでどっちが効いたのかは分離できません。「雇用統計でこう動いたから次も」みたいな検証をやろうとすると、こういう回が全部ノイズになるんですよ。
実務的には、同時発表の分は「方向を当てにいく時間帯じゃない」と割り切るほうが素直だと思います。複数の数字が割れて出てくる前提なら、結果を読んで入るより、ポジションを持たずに見送るか、指標をまたぐなら最初からロットを落としておくか。
あと地味に効くのが取引コストのほうです。注目が集まる時刻はスプレッドが開きやすいので、指標をまたぐスタイルなら発表時のスプレッドの振る舞いは口座選びの時点で見ておいたほうがいいと思います。このへんは業者によってだいぶ差が出るところなんですよね。
これから混む時刻(カレンダーから抜き出し)
せっかく31週分を持ってるので、直近で混雑してる時刻も拾っておきます。いずれも日本時間です。
- 10月29日 21:30(4本) — 米実質GDP速報値(★5)・米PCE価格指数(★4)・米個人所得支出(★3)・米新規失業保険申請(★3)。GDPとPCEが同じ分なので、かなり読みにくい組み合わせです
- 10月27日 23:00(3本) — 米新築住宅販売(★4)・米消費者信頼感(★4)・米リッチモンド連銀(★3)
- 10月30日 19:00(2本) — ユーロ圏GDP速報値(★4)・ユーロ圏雇用統計(★3)
- 11月6日 22:30(2本) — 米雇用統計(★5)とカナダ雇用統計(★3)。例の米加同時パターンがまた来ます
ちなみに10月28日9:30は豪のCPIが月次と四半期で同時に出ます。同じ指標の月次と四半期が同じ分って、さっきの「1本の中で数字が割れる」パターンの典型なんですよね。
数えてみて分かったことの限界
正直に書いておくと、今回の集計には弱点がいくつかあります。
- 変動幅は「発表から10分後の1点」なので、飛んで戻った動き(ヒゲ)は拾えていません。瞬間的なスプレッド拡大やスリッページの話とは別物です
- 対象はドル円の変動幅だけ。ユーロドルやポンド円で同じ結論になるかは確認できていません
- ★5の層別は27件と10件と件数が少ないので、傾向の目安くらいに受け取ってください
- 重要度★はカレンダー提供元の主観的な分類です。他の媒体では違う★が付くこともあります
集計に使ったスクリプトはセルフテスト込みで手元に置いてあるので、同じ手順で再現はできる状態にしてあります。
POINT
カレンダーを見るときに私がやるようになったのは、★の数を見る前にまず「その時刻に何行あるか」を見て、2本以上なら方向を当てにいかないと決めておくことです。値幅が大きくなるからじゃなくて、読み取りに時間がかかるからなんですよね。
FX取引はレバレッジを用いた取引であり、預けた資金(元本)を上回る損失が生じる可能性があります。本記事は情報提供を目的としたものであり、投資を勧誘するものではありません。取引を行う際は自己責任・余裕資金の範囲で行い、各社公式サイトで最新のリスク説明書・規約を必ずご確認ください。
まとめ
- 31週・1,411回の発表を数えたら、入る「分」は1,008個しかなく、発表の47.4%が他の発表と同じ分に出ていた
- 最大は7本同時(2026年10月15日21:30)。繰り返し出る組み合わせの筆頭は米国+カナダで43回
- ★4の単独率は42.9%で全★中いちばん低い。重要な指標ほど混んだ時刻に置かれている
- 同じ分の指標同士で予想比の向きが食い違うのは44.1%。1本の指標の中のサブ系列同士でも19.5%が食い違う
- 一方で「混んでる時刻ほど大きく動く」は成立しなかった。20pips以上の割合は単独3.2%→3本以上0.0%で、むしろ減る
- 混雑が効いてくるのは値幅ではなく「その場で方向を読めるかどうか」のほう
以前の自分の記事を数字で否定することになっちゃったんですけど、数えてみないと分からないものですね。カレンダーの行数を数えるのは今でも意味があると思ってます。ただしそれは「荒れるから避ける」じゃなくて、「結果を読んで判断するのを諦める目印」として使うのが正しいんだと思います。
最新の指標スケジュールや重要度の分類は提供元によって変わるので、実際に取引する前には必ずご自身でカレンダーと各社公式サイトを確認してくださいね。
