海外FXの話をしていると、必ず出てくるのが「信託保全が無いから危ない」というフレーズなんですよね。私もずっとそう聞かされてきたんですけど、ふと「じゃあ日本の信託保全って、法律上は具体的に何をやることなの?」と聞かれたら、正直まったく答えられませんでした。
というわけで、今回はe-Gov法令検索のAPIから金融商品取引法と金融商品取引業等に関する内閣府令の条文を直接取ってきて、該当箇所を全部読んでみました。読んでみたら、思っていたのとだいぶ違ったんですよ。「国内は安全、海外は危険」みたいな単純な話ではなくて、条文が要求しているのは15個のかなり細かい条件で、しかもその条件をよく読むと国内にも穴があるんです。
「分別管理」と「信託保全」は、条文の中でもちゃんと別物
まずここが一番の収穫でした。この2つ、なんとなく同じ意味で使われがちなんですけど、条文上はきれいに分かれています。
根拠になるのは金融商品取引法第43条の3第1項。「デリバティブ取引等に関し、顧客から預託を受けた金銭又は有価証券その他の保証金については、内閣府令で定めるところにより、自己の固有財産と区分して管理しなければならない」と書いてあります。つまり法律のレベルでは「自分のお金と分けろ」としか言っていないんですよ。具体的な分け方は内閣府令に丸投げされているんです。
で、その内閣府令(金融商品取引業等に関する内閣府令)の第143条第1項を見ると、取引の種類で方法が2つに分かれていました。
| 取引の区分 | 条文が認めている管理方法 |
|---|---|
| 通貨関連デリバティブ取引等(第1号) =FXはここ |
信託会社または信託業務を営む金融機関への金銭信託のみ |
| それ以外のデリバティブ取引等(第2号) | 銀行等への預金/元本補填のある金銭信託/カバー取引相手方への預託/媒介等相手方への預託 の4択 |
ここ、地味ですけどかなり重要だと思うんですよね。FX(通貨関連)だけは、条文上「信託しかダメ」と選択肢が1つに絞られているんです。他のデリバティブなら銀行預金で分けておけばセーフなのに、FXは信託一択。日本で「分別管理」と「信託保全」がセットで語られるのは、法律がそう書いているからだったんですね。
そもそもこの義務、誰に掛かっているのか
次に気になったのが「この条文の主語は誰なのか」でした。条文を遡ると、きれいな鎖になっていたんですよ。
- 第29条「金融商品取引業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ、行うことができない」
- 第2条第9項「金融商品取引業者」とは、第29条の規定により内閣総理大臣の登録を受けた者をいう
- 第34条「金融商品取引業者等」= 金融商品取引業者 または 登録金融機関
- 第43条の3第1項 その「金融商品取引業者等」が区分管理しなければならない
つまり、区分管理義務の出発点は「第29条の登録を受けていること」なんです。登録していない業者には、そもそもこの鎖が繋がらない。だから海外FX業者に日本の信託保全が「無い」のは、各社がサボっているからというより、条文の射程の外側にいるからなんですよね。この構造を理解しておくと、「海外は信託保全が無い」という一文の意味が、だいぶクリアになると思います。
POINT
「海外FXは信託保全が無い」は、業者の姿勢の話というより条文の適用範囲の話。日本の法令が課している義務は日本の登録業者に向けて書かれているので、登録していない海外業者には同じ義務が掛からない、というだけなんですよ。逆に言うと、海外業者が何をやっているかは各社が自分で決めて公開していることになるので、読者側が確認する項目が増えます。

「顧客区分管理信託」の中身は、条文だと15項目ある
では日本の信託保全が実際に何を要求しているのか。ここは内閣府令第143条の2第1項に全部書いてあって、第1号から第15号まで、15個の要件を「全て満たさなければならない」という作りになっています。長いので、個人的に「これは効いてるな」と思ったものだけ抜き出しますね。
| 号 | 要件のざっくり訳 |
|---|---|
| 第1号 | 業者が委託者、信託会社等が受託者、顧客が元本の受益者になる契約であること |
| 第2号 | 受益者代理人を選任し、うち最低1人は弁護士・公認会計士・税理士等であること |
| 第4号 | 登録取消・破産手続開始の申立て・廃業などが起きたら、弁護士等の受益者代理人だけが権限を行使すること |
| 第5号 | 信託財産の運用先に制限。投資信託の受益証券は必要額の3分の1まで |
| 第6号 | 信託財産が必要額に足りなくなったら、翌日から起算して2営業日以内に不足額を追加すること |
| 第9号 | 必要額を超えている分など、決められた場合以外は解約できないこと |
| 第11号 | 第4号の事態が起きたら、業者は信託財産の運用を指図できなくなること |
| 第14号 | 顧客への支払額は、換価額に「自分の金額 ÷ 必要額の合計」を掛けた額(自分の金額が上限) |
読んでいて一番「なるほど」と思ったのが第2号と第4号なんですよ。業者が倒れた瞬間に、資金のコントロールが業者の手から弁護士等に移るように契約の段階で仕込んでおけ、という設計なんですよね。信託保全って「別の金庫に入れてある」くらいのイメージだったんですけど、実際は倒産時に誰がスイッチを握るかまで条文で決めている仕組みでした。
国内でも「常時100%保全」ではない。2営業日の穴と按分の話
ここが今回一番の発見でした。条文をちゃんと読むと、日本の信託保全にも隙間があるんですよ。
まず第143条の3第1項に「個別顧客区分管理金額及び顧客区分管理必要額を毎日算定しなければならない」とあります。毎日計算するのは立派なんですけど、計算して足りないと分かった後の話が第143条の2第1項第6号で、こちらは「満たないこととなった日の翌日から起算して二営業日以内」なんです。
つまり理屈の上では、計算上は足りないけれど、まだ信託には入っていないお金という状態が数日分だけ存在しうるんですよね。週末や連休を挟めば実日数はもっと伸びます。これは法律違反でも何でもなくて、条文がそもそもそういう時間差を前提に書かれている、というだけの話です。
もう一つが第14号の按分です。顧客に支払われるのは「換価額 × (自分の金額 ÷ 全顧客の必要額合計)」で、自分の金額が上限。信託財産が目減りしていたら、戻ってくるのは按分された額になります。「信託保全があるから全額100%戻る」と言い切れるものではないんですよ。
注意
これは日本の制度を批判したいわけではまったくなくて、「保全」という言葉の解像度を上げたいだけです。むしろ毎日算定・2営業日以内の追加・弁護士等の受益者代理人、とここまで細かく決めている制度は相当しっかりしていると思います。言いたいのは、国内ですら条文上は隙間があるのだから、海外業者の「分別管理しています」という一文を自分で評価するには、同じ粒度の質問が必要になるということなんですよね。
15項目を、そのままチェックリストに変換してみる
ここまで来ると、やることはシンプルなんですよ。条文が国内業者に要求している項目を、そのまま質問文に書き換えればいいんです。海外業者を比べるときに私が使っている形がこちらです。
| 条文の要件 | 海外業者に対する質問 |
|---|---|
| 信託か、それ以外か(府令143条1項) | 公式サイトの説明は「信託(trust)」なのか、単に「分別(segregated)の銀行口座」なのか |
| 受託者は誰か(143条の2第1号) | 資金を預かっている金融機関名・所在国が公開されているか |
| 倒産時の権限(同第4号・11号) | 破綻時に資金を動かせるのは誰か、書面で定義されているか |
| 算定の頻度(143条の3第1項) | 残高の照合はどれくらいの頻度で行うと書かれているか |
| 不足時の対応(143条の2第6号) | 不足が出た場合の補填期限に相当する記載があるか |
| 支払いの方式(同第14号) | 全額なのか按分なのか。保険型の場合は補償上限と免責の条件 |
POINT
実際にこの表を持って何社か見比べてみたんですけど、宣伝ページではなく法定書類のPDF(顧客約款・資金管理ポリシー・保険証書)を開いた方が圧倒的に早いです。トップページの「資金は安全に保管されています」という一文からは何も分からないんですけど、約款まで降りると受託先・条件・上限といった具体語が出てきます。以前XSの保険証書を読んだときも、補償限度や注記は証書の本体にしか書いてありませんでした。逆に、探しても書いていない項目があったら、それは「書いていない」という事実としてメモしておけばいいと思うんですよね。書いていないことを「やっていない」と決めつける必要はなくて、確認できなかった項目として残しておくだけで十分判断材料になります。
ちなみに同じ内閣府令の第117条には、個人向けの通貨関連デリバティブ取引について証拠金の下限(想定元本の4%、いわゆるレバレッジ25倍相当)を定めた条項も入っていました。海外FXのハイレバレッジが日本の登録業者では成立しないのも、資金保全とまったく同じ構造で、条文の射程の内か外かという話なんですよね。
で、結局のところこういう項目は各社の公式サイトを自分で開いて読むしかないです。条件は普通に改定されますし、二次情報は古くなっていることが本当に多いので、気になっている業者があるなら一次情報を直接当たるのが早いと思います。
注意
本記事の条文はe-Gov法令検索で2026年11月4日に取得した時点のものです。法令も内閣府令も改正されますし、各社の資金管理の方法も変わります。実際に判断するときは、必ず最新の条文と各社公式サイトの最新の規約をご自身で確認してください。また、条文の解釈について具体的な判断が必要な場合は専門家にご相談ください。
FX取引はレバレッジを用いた取引であり、預けた資金(元本)を上回る損失が生じる可能性があります。本記事は情報提供を目的としたものであり、投資を勧誘するものではありません。取引を行う際は自己責任・余裕資金の範囲で行い、各社公式サイトで最新のリスク説明書・規約を必ずご確認ください。
まとめ
条文を読んでみて、私の中の整理はこうなりました。
- 法第43条の3は「分けろ」としか言っておらず、FX(通貨関連)だけは府令第143条第1項第1号で信託一択に絞られている
- 義務の主語は第29条の登録を受けた業者。海外FX業者に同じ義務が掛からないのは、条文の射程の外にいるため
- 日本の信託保全の中身は府令第143条の2の15項目。倒産時に誰が権限を握るかまで決めている
- ただし国内でも毎日算定+2営業日以内の追加という時間差があり、支払いは按分。「常時100%」ではない
- だから海外業者を見るときは、この15項目を質問文に変えて一次情報に当たるのが現実的
「信託保全が無い=危ない」で止めてしまうと、そこから先の比較ができないんですよね。条文が何を要求しているかを一度分解しておくと、各社の説明文を読むときの解像度が明らかに変わります。無登録の海外業者を使うかどうかは最終的には各自の判断ですけど、判断するための項目リストは条文から自分で作れる、というのが今回の結論でした。
