金曜の夜とか、指標発表の30分前とかに、ポジションを前にして固まった経験ってないですか。私は正直めちゃくちゃあります。
「跨ぐか、跨がないか」。この二択でずっと悩むんですよね。で、だいたい悩んでるうちに時間が来て、なんとなくそのまま持ち越すか、なんとなく全部閉じるかのどっちかになる。どっちを選んでも「もう片方が正解だった気がする」というモヤモヤが残るんですよ。
この記事では、この二択そのものをやめます。跨ぐか跨がないかではなく、「平常時の何割まで減らせば跨いでいいのか」を計算で出すという話です。しかもこの割合、資金がいくらでも、通貨ペアが何でも、リスク率が何%でも同じ数字になるんですよね。ちょっと面白い結果になったので、計算過程ごと全部書きます。
そもそも「跨ぐ」が特別扱いされる理由
普段のトレードって、損切り注文を置いておけば最大損失が決まりますよね。損切り30pipsで0.1ロットなら、最悪3,000円。だからロットもそこから逆算できる。これは海外FXの資金管理はロット計算がすべてで書いた考え方そのものです。
ところがこれ、「損切り注文が置いた価格で約定する」という前提の上に全部乗っかってるんですよ。 そしてこの前提、跨ぐ瞬間だけは成立しないんですよね。
損切り注文は「価格の約束」じゃない
ここ、意外と誤解されてる気がします。逆指値の損切り注文って、指定した価格で必ず決済してくれる注文じゃないんですよ。
IG証券の解説だと、逆指値の損切り注文は「価格(レート)が指値の水準へ到達する場合、成行注文で失効されます。このため、指値の価格と約定の価格に誤差が生じるケースが発生する」と説明されています。外為どっとコムの説明も同じで、逆指値は「実勢レートが指定レートに到達してから注文が執行されるため、スリッページが発生することがある」と書かれているんですよね。
つまり逆指値は「その価格になったら成行で投げる」というトリガーでしかないんです。約束してるのは「投げるタイミング」であって「約定する価格」じゃない。普段のレンジっぽい相場だと両者がほぼ一致するから気づかないだけで、値が飛ぶ場面では平気でズレます。
じゃあ許容スリッページを狭くすればいいのかというと、それも逃げ道にならないんですよね。外為どっとコムいわく、許容値を0にすると「少しでも不利なスリッページが発生した場合は全て不成立」になって「注文がなかなか成立しない可能性がある」。つまり滑りを拒否する設定は、損切りそのものを不成立にする設定なんですよ。滑るか、決済されないか。跨ぐときはこの二択しかない。
注意
プレミアムを払って約定価格を保証してもらう「ノースリッページ注文」のような仕組みを持つ業者もあります。ただしこれは全業者にある機能ではないので、自分の口座で使えるかどうかは事前に確認してください。少なくとも「逆指値を置いてあるから跨いでも大丈夫」という前提は、そのままでは成立しません。
週跨ぎと指標跨ぎは、同じ「跨ぐ」でも中身が違う
ひとくちに跨ぐと言っても、実は性質がけっこう違うんですよね。
指標跨ぎは、時刻が事前に分かっていて、その間も板は開いています。だから滑るけど約定はする。しかも数分から数十分で嵐は通り過ぎるので、その後は元のロットに戻せます。
週跨ぎはもっと厄介で、土日は板そのものが閉じてるんですよ。SBI FXトレードの解説によると、窓が「最も多く発生するのは、週明け月曜の早朝」で、これは「取引が行われていない時間帯に発生した価格変動により形成されるギャップ」なんですよね。板が無い区間を価格が飛び越えるので、逆指値も一緒に飛び越されます。滑り幅の上限が構造的に存在しないんですよ。
おまけに、指標と違って「何が起きるか事前に分からない」。指標跨ぎは「予定されたイベントの結果を待つ」ですが、週跨ぎは「予定されていない何かが起きるかもしれない48時間」なんですよね。しかも月曜朝まで手が出せない。だから週跨ぎのほうが、後で出てくる「想定変動幅」を厚めに見積もるべきだと私は思ってます。
跨ぐときのロットは、損切り幅ではなく「想定変動幅」で決める
ここまでが前提です。損切りが価格を守ってくれないなら、跨ぐときのロットは「損切り幅を食らったら」ではなく「想定変動幅を丸ごと食らったら」で計算するしかないんですよね。
式にするとこうです。平常時と跨ぐときで、分母が入れ替わるだけなんですよ。
POINT
平常時のロット = 許容損失額 ÷(損切り幅 × 1pipsの価値)
跨ぐときのロット = 許容損失額 ÷(想定変動幅 × 1pipsの価値)
で、ここからが面白いところなんですけど。この2つを割り算すると、許容損失額も1pipsの価値もきれいに約分されて消えるんですよ。残るのはこれだけ。
残していい割合 = 損切り幅 ÷ 想定変動幅
資金がいくらか、リスク率を何%に設定してるか、円建てかドルストレートか。これ全部、残す割合には一切影響しません。 効くのは「普段どのくらいの幅で損切りしてるか」と「そのイベントでどのくらい動くと見ているか」の2つだけなんですよね。ここ、私も計算してみるまで気づいてませんでした。
【計算表1】残していい割合
実際に計算するとこうなります。縦が想定変動幅、横が普段の損切り幅です。
| 想定変動幅 | 損切り20pips | 損切り30pips | 損切り50pips | 損切り80pips |
|---|---|---|---|---|
| 50pips | 40.0% | 60.0% | 減らさなくてよい | 減らさなくてよい |
| 100pips | 20.0% | 30.0% | 50.0% | 80.0% |
| 150pips | 13.3% | 20.0% | 33.3% | 53.3% |
| 200pips | 10.0% | 15.0% | 25.0% | 40.0% |
| 300pips | 6.7% | 10.0% | 16.7% | 26.7% |
| 500pips | 4.0% | 6.0% | 10.0% | 16.0% |
この表を見て私がいちばん「うわ」と思ったのは、よく言われる「指標前はロットを半分に」というアドバイスが、かなり限定的な状況でしか正しくないってことなんですよ。
だって半分=50%が正解になるのは、想定変動幅が損切り幅のちょうど2倍のときだけじゃないですか。損切り30pipsの人にとってそれは変動幅60pips。でも米雇用統計みたいな指標だと、SBI FXトレードの解説では「数分の間に米ドル/円のレートが1円以上も動くことも珍しくありません」と書かれてるんですよね。1円=100pipsです。表で見ると30%。半分どころか3分の1以下なんですよ。
「半分に減らしたから大丈夫」は、たいていの場合まだ減らし足りていません。
「想定変動幅」はどうやって決めるのか
この式、想定変動幅の見積もりで全部決まります。じゃあどう決めるか。正直、これに唯一の正解は無いと思ってます。ただ、勘で決めないための材料ならあるんですよね。
ひとつはATR(Average True Range)を使う方法です。跨ぐ期間に対応する足のATRを見る。週跨ぎなら日足ATRの数本分か、週足のATRそのもの。ATRは「普段どのくらい動くか」の平均なので、イベント日はそれを超えてくる前提で少し厚めに取る、という使い方になります。
もうひとつは、その指標の過去の実測です。前回・前々回の同じ指標のとき、自分が見てる通貨ペアが発表から30分でどれだけ動いたか。チャートを遡って数えるだけなので5分で終わります。
私がやってるのは、この2つを出して大きいほうを採用するだけです。上の表は行が「想定変動幅そのもの」になってるので、自分で出した数字をそのまま当てはめられるようにしてあります。
注意
この記事で挙げている変動幅の数値は、あくまで表を読むための例です。特定の指標が何pips動くかを予測したものではありませんし、そもそも「過去こうだったから今回もこう」は成立しません。想定変動幅は当てにいく数字ではなく、外したときに口座が耐えられるかを決めるための数字だと考えてください。
ここで「0.01ロットの床」にぶつかる
で、割合が出たら次は実際のロットに落とすわけですけど。ここで海外FX特有の壁が出てくるんですよね。最小ロットが0.01で、それより細かく刻めないという壁です。
円建てペアで計算してみます。1標準ロット=10万通貨なので1pipsが1,000円、0.01ロットなら1pipsが10円ですね。リスク率2%で、資金別・想定変動幅別に「跨ぐときのロット」を出すとこうなります。カッコの中が0.01刻みに切り捨てた実際の発注ロットです。
| 資金 | 平常時 (損切り30pips) |
G=100pips | G=150pips | G=200pips | G=300pips | G=500pips |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 5万円 | 0.033 (0.03) | 0.010 (0.01) | 0.007 (建てられない) | 0.005 (建てられない) | 0.003 (建てられない) | 0.002 (建てられない) |
| 10万円 | 0.067 (0.06) | 0.020 (0.02) | 0.013 (0.01) | 0.010 (0.01) | 0.007 (建てられない) | 0.004 (建てられない) |
| 30万円 | 0.200 (0.20) | 0.060 (0.06) | 0.040 (0.04) | 0.030 (0.03) | 0.020 (0.02) | 0.012 (0.01) |
| 50万円 | 0.333 (0.33) | 0.100 (0.10) | 0.067 (0.06) | 0.050 (0.05) | 0.033 (0.03) | 0.020 (0.02) |
| 100万円 | 0.667 (0.66) | 0.200 (0.20) | 0.133 (0.13) | 0.100 (0.10) | 0.067 (0.06) | 0.040 (0.04) |
「建てられない」が並んでるところ、ここが今回いちばん言いたかったところなんですよ。
資金5万円の口座には、想定変動幅150pips以上のイベントを「跨ぐ」という選択肢がそもそも存在しません。 減らして残そうとすると0.01を下回るので、選べるのは「全部閉じる」か「ルールを破って0.01を残す」かの二択になるんですよね。10万円の口座でも、300pipsクラスのイベントでは同じ壁に当たります。
これ、けっこう大事な話だと思ってて。跨ぐかどうかって、メンタルの強さとか度胸の問題みたいに語られがちじゃないですか。でも実際は「その選択肢が口座に存在するかどうか」という、ただの算数の問題なんですよ。持ち越したくてもできない口座がある。
ちなみに、ギリギリ建てられるところも精度はけっこう荒いです。資金10万円・想定150pipsの行は理論値0.013に対して発注は0.01なので、狙ってるリスク2%に対して実際は1.5%。0.5ポイント、率にして25%も下振れるんですよね。刻みが粗いところで割合をいじると、こういうズレが常に乗ってきます。
【計算表3】跨ぐという選択肢の「値段」
じゃあ、ちゃんと刻めるだけの資金っていくらなんでしょう。ATRの記事で使ったのと同じ基準——「0.01ロット1刻み分の損失が、許容損失額の10分の1以下に収まっていること」——を当てはめると、式はこうなります。
必要な資金 = 10,000 × 想定変動幅pips ÷ リスク率%
| 想定変動幅 | リスク率1% | リスク率2% |
|---|---|---|
| 100pips | 100万円 | 50万円 |
| 150pips | 150万円 | 75万円 |
| 200pips | 200万円 | 100万円 |
| 300pips | 300万円 | 150万円 |
| 500pips | 500万円 | 250万円 |
同じ式に平常時の損切り30pipsを入れると、リスク1%で30万円です。つまり想定変動幅150pipsのイベントを跨げる口座にするには、平常時の5倍の資金が要るということなんですよね。300pipsなら10倍。
この倍率、実は「想定変動幅 ÷ 損切り幅」そのものなんですよ。表1で出した「残す割合」の逆数です。残す割合が5分の1になるイベントは、同じ精度で回すのに5倍の資金が要る。 跨ぐという行為には、そういう値札がついてるんだと思っておくといいと思います。
実務の話:減らすのは前、戻すのは後
割合が決まったら、あとは一部決済で減らすだけ……なんですけど、ここで順番の話をひとつ。
海外FX業者の中には、経済指標の前後にレバレッジを一時的に制限するところがあります。Exnessでの指標発表前後の立ち回りでも触れましたが、複数の情報源で確認した限りでは、Exnessは重要指標の発表前後にレバレッジを最大200倍程度まで制限する運用をしているようです。
ここで大事なのが、この制限の対象は新規注文だけで、既存ポジションはそのまま維持されるという点なんですよね。これが実務上そのまま結論になります。
POINT
減らす(一部決済)は既存ポジションの操作なので、制限がかかっていても通ります。 でも戻す(建て直し)は新規注文なので、制限が解けるまで通らない可能性があるんですよね。「発表を見てから乗り直そう」と思っていると、いちばん動いてる時間帯に手が出せません。減らすのは事前でOK、戻すのは制限が解けてから、と分けて考えるのが素直です。
注意
制限が始まるタイミングは複数の情報源で「発表15分前から」で一致していたんですが、終わるタイミングは「発表後90秒」「発表後5分程度」と情報源によって食い違いました。 対象銘柄の範囲や、特に重要な指標での前倒しの有無についても記述にばらつきがあります。ここは私も確定できなかったので、実際に取引する前に必ず公式サイトの経済指標カレンダーとレバレッジ規定を確認してください。制限の内容も時期によって変わります。
この計算がやってくれないこと
ここまで表を3つ出しておいてなんですけど、この計算で守れる範囲はけっこう狭いので、そこは正直に書いておきます。
1. 想定変動幅を超えたら、この計算は何もしてくれません。 表1も表2も「Gまでなら耐える」という設計です。Gの2倍動いたら損失も2倍になります。予測ではなく、あくまで「どこまでの外れ方なら口座が生き残るか」を決めているだけなんですよね。
2. スプレッド拡大分は入っていません。 イベント時はスプレッドも広がるので、その分は上の計算の外側に上乗せされます。特に買いポジションの逆指値はBid(売値)で判定されるので、Askが動かなくてもBidだけ落ちれば刈られます。 スプレッド拡大は損切りラインの外側ではなく内側に効いてくるんですよ。
3. ゼロカットは資金管理の代わりになりません。 追証が無いのは確かにありがたいんですけど、ゼロカットが発動した時点で口座残高はゼロです。「最悪ゼロカットがあるから」でロットを決めるのは、この記事でやってきた計算の全否定なんですよね。
この考え方に向いている口座の条件
ここまで読んで気づいた方もいると思うんですけど、この方法の実行可能性を決めてるのはほぼ「最小ロットの刻みの細かさ」だけなんですよ。割合が出ても刻めなければ意味がないので。
その意味で、私がExnessを引き合いに出しているのには理由があります。複数の情報源で確認した限りでは、Exnessのスタンダードセント口座は1ロットが1,000通貨で、通常の口座(1ロット10万通貨)の100分の1の規模なんですよね。最小ロットはどちらも0.01なので、同じ0.01でも刻める細かさが100倍違うということになります。
これを表2に当てはめると、さっき「建てられない」だらけだった資金5万円の行が全部埋まります。実際に計算してみると、資金5万円・リスク2%・想定変動幅300pipsでも0.33セントロットが残せて、しかも1刻み分の損失(30円)は許容損失額1,000円の10分の1に収まってるんですよ。刻みが細かいというのは、単に少額で始められるという話ではなくて、割合でポジションを調整するという操作が物理的に可能になるということなんですよね。少額の口座でこの記事の方法を試すなら、ここは効いてくると思います。
ただし、セント口座の1ロットの通貨数について明確に書いていた情報源は1つだけでした。倍率が100分の1という方向性は複数のソースで一致していますが、正確な数量と口座タイプごとの条件は公式サイトで確認してください。 口座タイプによって扱えるプラットフォームや銘柄も変わります。
FX取引はレバレッジを用いた取引であり、預けた資金(元本)を上回る損失が生じる可能性があります。本記事は情報提供を目的としたものであり、投資を勧誘するものではありません。取引を行う際は自己責任・余裕資金の範囲で行い、各社公式サイトで最新のリスク説明書・規約を必ずご確認ください。
まとめ
長くなったので要点だけ並べておきます。
- 逆指値は「成行で投げるトリガー」であって約定価格の約束ではないので、跨ぐときは損切り幅を前提にできない
- だから跨ぐときのロットは想定変動幅を丸ごと食らう前提で計算する
- 残していい割合 = 損切り幅 ÷ 想定変動幅。 資金にもリスク率にも通貨ペアにも依存しない
- よく言われる「半分に減らす」が正解になるのは、想定変動幅が損切り幅のちょうど2倍のときだけ
- 0.01ロットの床があるので、資金が小さい口座には「跨ぐ」という選択肢自体が存在しないことがある
- 同じ精度で跨ぐには、平常時の(想定変動幅 ÷ 損切り幅)倍の資金が要る
- 減らす操作は事前に、戻す操作は制限が解けてから
個人的にいちばん収穫だったのは、跨ぐかどうかの判断が気合いや相場観の問題ではなく、割り算1回で片がつくと分かったことなんですよね。金曜の夜に固まる時間が減っただけでも、試してみた価値はあったと感じています。
もちろん、これはあくまで考え方の一例です。想定変動幅の置き方次第で答えは変わりますし、そもそも「跨がない」が正解の場面も普通にあります。ただ、二択で悩む代わりに数字を1つ出すというやり方は、個人的にはおすすめできると思っています。よかったら自分の損切り幅で表1を見てみてください。
